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Stone The Crows – Stone The Crows (1970)

 〈Maggie Bellは並大抵の男より酒もケンカも強かった〉というのはKeef Hartleyの言だが、そんなパワフルな彼女のブルース・シンガーとしての才覚は、ギタリストLeslie Harvey(Alex Harveyの弟でもある)と組んだStone The Crowsで本格的に開花した。しかしファースト・アルバムである本作は、Led Zeppelinの前座として回ったアメリカ・ツアーの印象を描いた「I Saw America」を聴けばわかる通り、一筋縄でいかない一枚である。17分に及ぶこの大曲は、Bellのソウルに満ちた歌声のほか、ジャジーなJohn McGinnisのオルガンやドラマーColin Allenの刻む複雑なリズム、そしてHarveyが一心不乱にかき鳴らすフォーク・ギターといった様々な音楽ジャンルの折衷によって構成されている。
 BellとHarveyはバンドの中心なのは間違いないが、同じくらいサウンドで重要なのはMcGinnisの存在だ。オープニングの「The Touch Of Your Loving Hand」はMcGinnisの悲しげなメロディとベーシストJames Dewarのボーカルで始まる、大人な雰囲気のたっぷり漂うバラードだ。「The Fool On The Hill」のカバーでは神々しささえ湛えるオルガンと落ち着いたピアノの対比が、曲にゴスペルチックな彩りを添えている。また、「Raining In Your Heart」はサイケ時代のEric Claptonを思い出させる鋭いギターのリフをバックに、濃密な男女のデュエットが展開されていく。文句なしのカッコよさだ。
 このアルバムはセールスよりも批評的な評判を呼んだ。バンドは着々とアルバムを制作していったが、そのさなかの1972年に、27歳のHarveyがステージ上で感電死するという悲劇に見舞われてしまう。この事故には様々な憶測があり、野外だったとも屋内だったとも言われ、観客の目の前の出来事ともリハーサル中だったとも言われている。