Wu-Tang Clan – Enter The Wu-Tang (36 Chambers) (1993)
Wu-Tang Clanは1992年の自主シングル「Protect Ya Neck」でまずNYのFMラジオをジャックし、翌年のアルバム『Enter The Wu-Tang (36 Chambers)』で全米にハードコア・ヒップホップの旋風を巻き起こした。カンフー映画をモチーフに据えたこのグループが何よりも新鮮だったのは、彼らの繰り出すリリックの題材が実に多岐にわたっていたことだ。異様なまでに低音を強調した外連味のあるビートに乗せられた詞の中には、ポップ・カルチャー(アメコミやコアな映画ネタ)から、ギャングスタ的な拝金主義やマリファナに至る様々なワードを縦横無尽にちりばめている。
Ghostface Killah、Masta Killa、RZA、Raekwon、U-GodにInspectah Deckなど、合計で9人に及ぶMC達はそれぞれが個性を持っていて、お気に入りを一人選ぶのが難しい。中でも強烈なのは、どすの効いた低音をかますMethod Manや、がなり立てるようにフロウするOl' Dirty Bastard。そして、そんな彼らとGenius/GZAのようなクールな男が見事なコントラストを生み、Wu-Tang Clan特有のMCのるつぼとも言うべきイメージを作り上げていった。
映画のサウンドのサンプリングで始まる「Shame On A Nigga」や、「C.R.E.A.M.」の不気味なメロディといったアングラ・ヒップホップの文法は、本作のヒットによってメインストリームのスタイルと合流した。一方で、「Protect Ya Neck」のように多数のMCが入り乱れる曲や「Wu-Tang Clan Ain't Nuthing Ta F' Wit」の冒頭の騒がしい雰囲気は、大所帯のWu-Tang Clanにしか出しえないものだ。