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"A" Train – "A" Train (1979)

 〈知る人ぞ知る〉とは、きっとこの事を言ったのだろう。ルイジアナ出身の"A" Trainによるファースト・アルバムは、「Baby Please」が地元ラジオ局のお気に入りになったことでローカル・ヒットを果たした。とはいえ、日本での再発により広く知られるようになるまでは音楽の歴史に埋もれ、その中でマスター・テープは消失している。そのために、リイシューの際はサウンドをアナログ盤から丹念に針起こししなければならなかったくらいだ。
 だが、そうまでして掘り起こす価値のある一枚だったことは、先の「Baby Please」を聴けば納得できるだろう。名前の〈"A" Train〉から分かるように彼らはもともとジャズを志向したグループであり、ピアノのChris McCaaやサックスのJohn Howeが書いた曲は、非常にフュージョンの色が強いAORだ。「Time Stops」はスムースなサウンドにBuddy Flettのさわやかなギターが乗る素晴らしいオープニング。Flettはモダン・ブルースの畑でも活躍しており、彼の書いた「Honky Tonk」はKenny Wayne Shepherdによってカバーされている。「Trip On Your Lip」ではHoweの上品なスキャットが楽しめるが、その一方で「Bend Over Baby」のように、後の泥臭い音楽性の片りんをうかがわせるシーンもある。「Baby Please」と並んでAOR愛好家の語り草になるのが「When I Call Your Name」だ。これはMcCaaの美しいシンセ・ピアノと繊細なコーラスが活きた、宝石のような輝きを放つ一曲である。
 本作以降はバンドの勢力の均衡は崩れ、セカンドの『Overdue』ではスイングやブギウギを交えたスワンプ・ロックの路線を、Flettが(彼の兄弟でありベーシストでもあるBruceとともに)主導した。