Black Sabbath – Paranoid (1970)
Black Sabbathにとって、ファースト・アルバムが悪魔崇拝のイメージで受け取られてしまったのは、実は想定外の出来事だった。内ジャケに逆十字のモチーフがあしらわれたことや、レコードの発売日が13日の金曜日にブッキングされたことは、デビューしたての彼らのあずかり知らぬところで、これらはあくまでレコード会社によるマーケティングの戦法にすぎなかったからだ。
そこで、曲の多くの作詞を担当していたTerry "Geezer" Butlerは、戦争批判や政治色を次のアルバムに盛り込むことにした。「War Pigs」はその最たる例であり、サウンドのヘヴィさはそのままに、Butlerはベトナムの悲惨さや戦禍を生みだす社会そのものへ、壮絶な怒りを向けている。謎に満ちた「Iron Man」は、まるで預言者のようなOzzy Osbourneのボーカルと重厚で印象に残るリフで聴く者をノック・アウトし、テンポの上がった中盤にはTony Iommiのギター・ソロがさく裂する。こうした曲のキャッチーさは反核を歌った「Electric Funeral」にも表れ、一方ミニマルなサウンドの魅力は幽玄な「Planet Caravan」などで味わうことが出来る。「Rat Salad」はIommiとドラマーBill Wardのブルージーかつジャジーな魅力が出たインストだ。
だが、本作でも予想外の出来事は起こった。レコーディングの穴埋めのために急ごしらえで作った「Paranoid」が名曲に化けたのだ。Iommiがほとんど即興で弾いたシンプルなリフに歌詞をつけて生まれたこの曲は、シングルとしても大ヒット(英国で4位)し、もともとは「War Pigs」がなるはずだったアルバムのタイトル・トラックの座も奪ってみせた。
本作はBlack Sabbathのキャリアの象徴になった。収録曲の多くは今この時間もどこかの国のメタル・バンドによってカバーされている。