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Tony Bennett – For Once In My Life (1967)
Frankieほどあからさまではないにしろ、Tony Bennettのキャリアにも浮き沈みというものはあった。業界にはロック音楽の波が押し寄せ、1966年の「The Shadow Of Your Smile」を最後に、Bennettはグラミー賞から四半世紀近く遠ざかっていく。ここから彼の苦闘の時代が始まるが、それでも『For Once In My Life』の持つおだやかなスインギーさには思わず顔がほころんでしまう。
タイトル・トラックのバラード「For Once In My Life」は、翌年にStevie Wonderがカバーした。ビートこそファンキーに変わってはいるが、Bennettのバージョンに似た落ち着いた雰囲気がWonderの歌にもしっかりと表れている。かつての〈Little Stevie〉がすっかりオトナの深みを漂わせる男になったことを印象付けたこの曲は、後年にお互いのデュエットが実現したことでふたたび話題となった。
名曲「Broadway」と「Lullaby Of Broadway」を余計なアレンジなく歌ったメドレーが底抜けに明るい一方で、古くややマイナーな選曲の「How Do You Say Auf Wiedersehen」や「Keep Smiling At Trouble」では、トランペットの音色が絶妙なタイミングでBennettの醸す哀愁に彩りを添えている。
60年代後期のBennettの作品群は、その興味深さに対して高く評価されているとは言えないのが現状だ。彼がThe Beatlesのサイケ・ロックを無理やり歌わされた『The Great Hits Of Today!』などはその典型で、評論家には袋叩きにされた。しかしその時代の中でも『For Once In My Life』のような名品があることは記憶にとどめておきたい。