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Alice In Chains – Dirt (1992)

 元々はメタルの土壌から出現したAlice In Chainsは、SlayerやMegadethといったスラッシュの先鋭たちに続く存在として活動を重ねていた。そんな彼らが今ではグランジ・ムーヴメントの先駆と目されているのだから、歴史とは分からないものだ。その理由は単にバンドがシアトルの出身というのもあったが、最も大きいのは1992年のグランジの記念碑的映画『シングルス』に参加し、知名度を大いに上げたことだ。映画の勢いを得た本作は、その陰鬱な内容とは裏腹に現在までに500万枚を売り上げる大ヒット・アルバムとなった。
 彼らがヒーローとして公言するBlack Sabbathの影響を受けた、重量級のリフをひたすら反復していくスタイル、シンガーLayne Staleyの粘着質なボーカル、戦争におびえドラッグに溺れるダークな歌詞——これらすべてがグランジという音楽ジャンルのひな型となった。「Them Bones」や「Dam That River」といったナンバーが、かろうじて本作における最もアッパーなチューンで、あとは絶望の沼に沈んでいくためのサウンドトラックと言っていい。躁鬱的な展開を見せる「Sickman」、『シングルス』に提供された「Would?」をはじめ、「Dirt」や「Junkhead」など、多くが薬物中毒の犠牲者を描いている。
 「Rooster」は、ベトナムへ行っていたJerry Cantrellの父親の体験をヒントに書かれた反戦歌だ。Cantrellは男性性の象徴ととられがちな雄鶏のイメージを逆手に取るかのように、残酷な戦争の物語を描き出してみせる。
 この深刻なドラッグのイメージは、バンドの初期のキャリアにはずっとついて回った。本作からちょうど10年後の2002年に、Staleyがオーバードーズでこの世を去った時は誰も驚かなかった。それほどまでにAlice In Chainsの世界観には破滅を予感させるものがあったのだ。