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Astrud Gilberto with Stanley Turrentine (1971)

 60年代のAstrud Gilbertoは、当時の夫であるJoão Gilbertoとサックス奏者Stan Getzのアルバム『Getz/Gilberto』に収録された「The Girl From Ipanema」を歌っただけで、たちまちボサノヴァのアイコンになった。プロとしての経験の薄さが南米娘の無垢な魅力となって体現されたこの歌はシングルとしてもヒットしている。
 数年の間に技巧を身に付けた彼女は、今度はブルーノートからCTIへ移籍したばかりのテナーの名手Stanley Turrentineと組んだ。本作のサウンドには、モダン・ジャズからフュージョンへ舵を切ったTurrentineの勢いとともに、Deodatoの指揮する豪奢なオーケストラ・サウンドが乗っており、そのいずれもが彼女の官能的なボーカルをひき立てている。実にCTIらしいクロス・オーバーである。
 「Wanting Things」はボーカルの後にラテンのリズムを得て演奏が加速する展開が絶妙だ。「Brazilian Tapestry」や「Zazueira」ではAirto Moreiraも参加したパーカッションが、Turrentineのソロに彩りを添えている。「Ponteio」のイントロで翳りのあるハーモニカを吹いているのはToots Thielemansで、彼はCDで追加された「Just Be You」では口笛を吹いている。
 「The Girl From Ipanema」は英語で歌ったAstrudだが、本作では名曲のポルトガル語バージョンをいくつか披露した。「Historia De Amor」は映画の主題歌で、ポップ・ロック風に仕上がっている「Sólo El Fin」はCarpentersが同時期に大ヒットさせたナンバーだ。
 AstrudとTurrentineが交わらない場面も多いが、全体を通してとても上質なイージー・リスニングとして完成している。