見出し画像

The Millennium – Begin (1968)

 〈億万長者になんかなりたくないんだ〉。そうLee Malloryはつぶやいたが、『Begin』が少なくとも大成功をおさめるべきアルバムだったのは間違いない。
 The Millenniumは、The Ballroomというグループを解散したばかりだったCurt Boettcherと、Keith Olsenによる新プロジェクトとして始まった。バンドはMalloryをはじめとして、Graham SalisburyやMichael Fennelly、そしてJoey Stecといった優れた才能のメンバーに恵まれ、さらにコロムビア・レーベルが誇る最新の16トラック機材を使うチャンスも得た。満を持して制作された本作は、今でこそポップ・ロックの歴史に屹立する一枚だが、発表された当時はチャートインもかなわず、10万ドルをかけたといわれるレコーディング費用に見合うセールスはほとんど上げられなかった。
 確かに前衛的な一枚だが、美麗なコーラスワークと重層的に作り込まれたサウンドはいつ聴いても素晴らしい。ラテンを見事に取り入れた「To Claudia On Thursday」や途方もなく賑やかな「Sing To Me」を聴けば、本作がサンシャイン・ポップの金字塔と呼ばれる理由がすぐにわかるだろう。また、コーラスの妙を楽しむなら「I'm With You」や「There Is Nothing More To Say」を聴くのもいい。
 こうしたきらびやかさの一方で、ハードなドラムとキーボードでほとんどが構成された曲を「Prelude」として据える意外性や、「Anthem (Begin)」に見られる遊び心も彼らの魅力である。特に衝撃的な「Karmic Dream Sequence #1」は、何度繰り返しても新鮮な気持ちで聴くことのできる稀有な一曲だ。また「It's You」にはStecのギタリストとしての才覚がみなぎっていて、「Some Sunny Day」や「The Island」といったトラックには、そこはかとないカントリーの香りを感じ取ることもできる。
 マーケットからは無視されしばらくは伝説だった一枚だが、90年代に入り再評価の機運がにわかに高まった。それは本作の再発だけにとどまらず、お蔵入りとなっていた音源の発掘に続々と繋がっていった。