Jimmy Rushing – Goin' To Chicago (1955)
Count Basieのオーケストラにおいて十数年にわたって不動の地位を築いたJimmy Rushingは、1920年代からJelly Roll MortonやWalter Pageのもとでブルースを歌ってきた偉大なるシンガーだ。初期の録音こそ残っていないとはいえ、当時女性が主要な地位を占めてきたシーンの中で彼は大きな存在感を放っていた。それはジャケットのような〈Mr. Five by Five〉と呼ばれた特徴的な体格をしていたのもあったが、もちろん一番の理由はその歌声のイマジネーション豊かな表現力である。ブギウギやバラードを自在に歌い分けるRushingの声は太くしなやかであり、安定感に富んでいながらも一聴して彼だと分かる個性がある。
本作はBasie時代のヒット曲「Goin' To Chicago」をフィーチャーしたソロ名義の代表作で、Jo JonesやBuddy Tateなどバックのミュージシャンも充実している。全体としてはビッグ・バンド風の演奏スタイルを踏襲しているが、ピアノのSammy Priceは「I Want A Little Girl」や「How Long」といった抑制されたホーンの中で特に光る演奏を聴かせている。ゴージャスな「Boogie Woogie (I May Be Wrong)」はジャズの楽しさのすべてを3分半に凝縮したようなナンバーで、一方「How You Want Your Lovin' Done?」ではPat Jenkinsのミュート・トランペットとRushingの物憂げなボーカルの対比が見事だ。また、Hank Williamsがヒットさせたカントリー曲「My Bucket's Got A Hole In It」をかくも華麗にスイングさせる味わいなどは、他のシンガーでは得られない。
Rushingはコンサートやスタジオで多くの後進アーティストと交流し、特にDave Brubeckとは60年に素晴らしいデュエット・アルバムを残した。