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Walter "Shakey" Horton, Martin Stone, Jessie Lewis & Jerome Arnold – Southern Comfort (1969)

 語り草の一枚である。〈Big Walter〉のあだ名で有名なハーピストWalter Hortonと、ライオンのような髪型をしたイギリスのギター青年Martin Stoneが競演した『Southern Comfort』は、落ち着いた雰囲気を湛えたブルース・セッションの秀作だ。当時、元Savoy BrownのStoneはMighty Babyのメンバーになっており、かつてUKを包んだブルース・シーンの熱気も、ハード・ロックの熱狂へと急速に変わりつつあった。
 Jimmy Rogersによるナンバー「If It Ain't Me」と「Walking By Myself」は、Hortonのブロウがラフに響く、気持ちのいいシカゴ・ブルースに仕上がっている。本作のもう一つのキーはStoneの巧みなギターだ。スローなジャムの「Easy (No. 2)」や軽快なシャッフル「Need My Baby」は主役であるHortonのハープを器用にひき立てている一方で、「Sugar Mama」ではねっとりとしたUKらしいソロを爆発させている。「Somethin' Else」でのB.B. Kingのように落ち着いたプレイも上品で魅力的だ。
 だがHortonの仕事はそこまでだった。あろうことかHortonはセッション中ひどく酔っていたため、バックで参加していたJesse Lewis Green(Otis Rush Blues Bandのドラマー)と、Jerome Arnold(Paul Butterfield Blues Bandのベーシスト)が急遽ボーカルを執らねばならない事態に陥った。だが彼らの歌声が聴けるテイクはなかなかに貴重で、特にLewisのオリジナルである「Found A New Love」では、LewisがRush風のボーカルを披露しているのが実に興味深く思える。
 特筆すべきはやはりラストの12分に及ぶ「Netti-Netti」で、「Instrumental Raga」とも題されている通りStoneがシタール風のギターを聴かせ、特殊効果もふんだんに盛り込まれた一大サイケデリアである。ついに酔いつぶれたHortonがドロップアウトした穴を埋めるために生まれた苦し紛れのジャムなのだが、同時に驚きもある。シカゴのドラマーであるはずのLewisが、ここではまるでクラウト・ロックを思わせるほどに淡々としたビートを刻んでみせている。