Carey Bell – Carey Bell's Blues Harp (1969)
1968年、すっかり憔悴しきっていたCarey Bellはハープ一本でシカゴのブルース・シーンを生き抜く決心を固めはじめていた。Martin Luther King, Jr.の暗殺によって歯止めの効かなくなったシカゴ暴動に巻き込まれ、無実のまま留置所にぶちこまれた彼は、当時従事していた日雇いの仕事も辞めてしまっていた。そしてミュージシャンとして一線に戻ってからほどなくして、Little Walter直伝のハーモニカ・テクニックをデルマーク・レーベルに買われたのだった。
こうした経緯を踏まえると、『Carey Bell's Blues Harp』はある種吹っ切れたBellの勢いが満ちたアルバムに聴こえてくるはずだ。一曲目を飾った「I'm Ready」のサウンドは、ほかの何をおいても象徴的である。Little Walterによる完璧なハープ・ソロをフィーチャしていたMuddy Watersのバージョンを更新するかのように、Jimmy Dawkinsのギターの存在感を強く押し出している。他にも「I Got To Have Somebody Too」や「Blue Monday At Kansas City Red's」といったスロー・ナンバーや軽快なシャッフルで、Eddie Taylorのプレイと自らの力のこもったソロを絡めている。
白眉は、名曲「Last Night」の情念に満ちたハープのブロウで、やはりこれもLittle Walterの代表曲であった。Bellは後にブルーズウェイやJSPのアルバムでもこの曲を取り上げることになるが、彼自身のキャリアはシカゴ・ブルース一辺倒だったわけではない。Heinz Sauerのようなユーロ・ジャズのミュージシャンと共演した『Blues After Sunrise』のような珍しい作品も残している。