Linda Ronstadt – Simple Dreams (1977)
『Simple Dreams』はLinda Ronstadtのソロ・キャリアの頂点であると同時に、アメリカ西海岸のミュージシャン一派の力を集結して完成した傑作だ。RonstadtはプロデューサーのAndrew Goldとの黄金タッグを解消して、James Taylorをスターに押し上げた気鋭のPeter Asherを新たに迎えた。
LAのカントリー・シーンで培われてきた彼女のボーカルは、Buddy HollyやRoy Orbisonといったオールディーズ(「It's So Easy」「Blue Bayou」)にはじまり、Eric Justin Kazの見事なバラード(「Sorrow Lives Here」)、そしてWarren Zevonの描き出す屈折したロック(「Poor Poor Pitiful Me」)まで、非常に幅広くものにしてみせた。脇を固めるミュージシャンたちはいずれもお墨付きの面々で、Zevonの右腕として活躍したWaddy Wachtelは「Tumbling Dice」の解釈を大胆に塗り替えた見事なスライドをプレイしている。さらに、古いフォーク・ソングをDolly Partonとデュエットした「I Never Will Marry」では、Mike Auldridgeのドブロが全体的に賑やかな雰囲気を持ったこのアルバムに、適度な寂寥感をもたらしている。
もちろんレコードの売り上げは申し分なかったがアートワークもまた素晴らしいものだった。デザイナーのJohn KoshはRonstadtの柔らかな後ろ姿と芯の強い表情をとらえ、淡い絵画のように仕上げた。彼はロック史を彩ったこのジャケットで、Asherとともにグラミー賞を獲得している。