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Stuff Smith – Cat On A Hot Fiddle (1960)

 スイング・ジャズの時代を謳歌したStuff Smithにとって、最も輝きに満ちているのはやはりNY52番街のオニキス・クラブで活躍した30年代、ということになる。ビバップの時代においてもスイングにこだわり続けた彼のポジションは独特といえば独特だが、同時に妥協がなく一貫している。
 『Cat On A Hot Fiddle』はヴァーヴ期のSmithの作品の中でも特に触れやすいアルバムであり、バイオリン・ジャズの格好の入門編でもある。何をおいても圧倒的な一曲が「Take The "A" Train」だ。原曲よりずっと早いテンポの中、まずは前半でSmithと他のメンバーたちが短いソロを繰り出しあい、後半はフィドルがまるで渦のようにセッションをまとめ上げていく。熱狂的なソロを聴かせたSmithは、最後でスコットランドの民謡の一節をさりげなく引用し、突然とも言うべき潔さで演奏を終える。一方「Blue Violin」のように落ち着いたナンバーでは、フィドルの持つ優雅さや色っぽさが存分に引き出されているのも素晴らしい。
 本作に収録された曲はGershwinの古典がほとんどで、「Somebody Loves Me」、「Oh, Lady, Be Good」はSmithのハスキーかつ洗練されたボーカルが実に見事だ。ピアノとフィドルからなるカルテット編成もよく活きており、「Take The "A" Train」や「Undecided」では、Paul Smithとの煽りあいが手に汗握るセッションを生み出す。「They Can't Take That Away From Me」は対照的なバラードで、もう一人のピアニストShirley Hornは、落ち着いて堂々としたタッチで演奏全体を上品なスタイルに仕上げてみせた。
 モダン・ジャズの隆盛の時に本作のようなアルバムが生まれたことは、むしろ痛快にさえ思えてくる。