The Family Of Apostolic – The Family Of Apostolic (1968)
The Family Of Apostolicの中心人物であるサウンド・エンジニアJohn Townleyが、かつてニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジに建設したアポストリック・スタジオは、当時は画期的だった12トラック録音ができる数少ない音楽のアトリエだった。変人の多いアポストリックに入り浸っていたミュージシャンの一人がFrank Zappaで、時には予約をひと月まるごと押さえるほどの熱の入れようだった。そうして彼の初期の傑作アルバムの多くが、ここで録音された多彩なトラックから構成された。
『The Family Of Apostolic』はスタジオの関係者たちで構成されたコミュニティによる2枚組の大作だ。クレジットにはZappaの実験作に参加した者も見られるが、サウンド自体はそこまでやかましいものではなく、全体的にフォーキーな魅力があふれている。
アルバムは「Redeemer」のサイケともトラッド風ともいえる神秘的な響きから始まる。様々な動物の声をコラージュした「Zoo Song」や、不穏な「Taking Me Home」には旺盛な実験性が垣間見える。その一方で、まるでSimon & Garfunkelが歌っているような「Please Be Mine」には、てらいのようなものはない。また、讃美歌「O Splendour」や民謡「Dholak Gheet」といった伝統歌の素晴らしいカバーも本作のポイントとなっている。
「Down The Road」は実にシンプルなブルースで、ギターの音色はTownleyがかつて師事したGary Davisの奏法に影響を受けている。ヴァンガード・レーベルのサイケ・コンピにも収録された「Saigon Girls」は、穏やかなフォーク・ロックが軍隊風のマーチに呑み込まれていく、象徴的かつ痛烈な一曲だ。ほかにも「Old Grey House」の穏やかなサックスや「Doin' A Stretch」でのカントリー風のフィドルなど、何が飛び出すか分からない『The Family Of Apostolic』には、一貫した自由さと同時に音楽に対する真摯な愛情を感じずにはいられない。