Stan Kenton – Kenton In Hi-Fi (1956)
1955年にイギリスのEMIが株主になったことで経営に余裕が生まれたキャピトル・レーベルは、往年のスイング・ジャズのハイファイ録音を売りにしたアルバム・シリーズを立て続けに発表した。名盤『Kenton In Hi-Fi』もその中のひとつだ。
独学でピアノと編曲の技術を身につけたStan Kentonは、超大所帯のオーケストラから生まれる分厚いサウンドで40年代のジャズ界に独自の地位を築いていた。彼はアフロ・キューバンの傑作「The Peanut Vendor」で激しいダンサブルなリズムを叩き出すこともすれば、時には本道から積極的に逸脱し、「Concerto To End All Concertos」ではクラシック音楽の持つ伝統的な構造を破壊するような試みも展開していた。Kentonの創造性が爆発していた時代の楽曲群を親しみやすい音で再演し、的確にまとめているという点でも本作はコレクションに入れる価値が大いにある一枚だ。
モチーフは様々ながら、Kentonの魅力は一貫したポップなスイング感覚を失わないところにある。「Artistry Jumps」のピアノのタッチは実に難解だし、「Lover」におけるテンポの変化の激しさは思わず目を回しそうになるが、サックスのVido MussoやトランペットのPete Candoliを擁した騒々しいメンバーたちのブロウは実にパンチが効いている。このアルバムに入っているのは単なるスタンダードではない。創造と破壊がもたらす生々しい高揚感がしっかりと息づいている。