Memphis Slim – The Real Folk Blues (1966)
日本のアニメにまでインスピレーションを与えたシカゴの名門チェス・レーベルによる『The Real Folk Blues』シリーズには、ピアノ・ブルースの巨人Memphis Slimも名を連ねている。しかし、1961年に出たアルバム『Memphis Slim』と重複する曲が多いせいか、同シリーズの中でもスポットを浴びる機会がお世辞にも多いとは言えない一枚でもある。誰もが知る名曲「Mother Earth」といい、洒脱な構図のジャケットといい、本作の影が薄いのは返す返すも残念なことだ。
「Mother Earth」は『At The Gate Of Horn』でのバージョンが最も有名だが、このアルバムではドゥーワップ調のコーラスが印象的だ。数あるブルースの中でも名詩と名高いこのフレーズは後のアーティストに、ジャンルを問わず大きな影響を与えている。他にも「Really Got The Blues」のようにジャジーなアレンジの曲が多いのも特徴と言えるだろう。「I Guess I'm A Fool」の甘いコーラスをバックに歌うSlimの声にときめかない人が果たしているだろうか?
61年盤『Memphis Slim』には未収だったインスト曲「For A Day」は、ボーカルの代わりにIke Perkinsのワウを強く効かせたようなギターがフィーチャーされている。曲調の似た「My Baby」のインスト版といったところだ。
卓越したピアノのテクニック、知性のあるロマンチックな歌を聴かせると思えば、バレルハウスらしい軽快な曲も飛び出す。伊達男の名にふさわしい偉大なピアニストSlimの魅力はその自在な表現力にある。ロックを遡ってチェス・レーベルに行きついたギター・ブルースのファンを深みに引きずり込もうと思うのならば、まず彼のピアノを聴かせてみることだ。