Untold – Black Light Spiral (2014)
ヘムロック・レコーディングスはハートフォードシャーを拠点として10年代UKダブステップの前線を歩んだレーベルである。主宰のプロデューサーJack DunningがUntold名義で2014年に発表したフル・アルバムは、彼独自の美学を基にしつつも、ベース・ミュージックの常識や規範を逸脱した暴力的なサウンドにあふれる傑作だ。
インダストリアル由来の冷酷さを秘めたサウンドは、Sei AやJoeといった同門のアーティストたちとは一線を画している。ベース・ミュージックとしての重量感は当然としても、無垢な者を踏みつけにするような暴力とヒステリックな衝動がそのまま具現化している様は、あらゆるリスナーを拒んでいるかのようだ。これを単に怒りと呼ぶにはUntoldの放つビートはあまりにも冷たすぎる。
希薄なビートの中でサイレンが響き続ける「5 Wheels」で幕を開ける一方で、セリフの反復と歪んだダブが延々と続く「Sing A Love Song」のようなキラーチューンと呼ぶべき曲も、本作には確実に存在している。「Hobthrush」はCD化の際に新たにミックスを加えられ、音の拡がりはより開放的になった。
『Black Light Spiral』によって、ヘムロックの首領としての実力はこれ以上ないほどに示された。しかしその突き抜けた音楽性は、かつてJames Blakeがデビュー作「Air & Lack Thereof」をリリースしたレーベルである、という事実さえも忘れてしまいそうになるほど強烈だ。