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Clare Fischer – First Time Out (1963)

 優秀なアレンジャーとして、すでに西海岸のシーンで少なからぬ注目を集めていたClare Fischerのファーストは、BIll Evansの抒情的なメロディ感覚の影響を感じさせるが、同時にLennie Tristanoにも似た理知的なサウンドも深く息づいている。ダウンビート誌は惜しみのない称賛をこの鮮烈なデビュー作に与えており、ヨーロッパ盤のジャケットに付けられた五つ星のマークからは、当時のジャズ・ファンたちの熱い歓迎ぶりが見てとれる。
 ワルツ風の三拍で演奏される「Nigerian Walk」は、冒頭からFischerの豊かなリリシズムが湧き水のように溢れ出してくるナンバーである。演奏が進むにつれてドラマーのGene Stoneはアフリカン・タンバリンでFischerのパーカッシブなリズム感覚を徐々に引き出していく。探求心に満ちた完全即興の「Free Too Long」は本作のハイライトのひとつで、緊張のほどける瞬間の一切ない攻撃的なフリー・ジャズだ。
 こうした叩きつけるような鍵盤のタッチとの対比を見せるのが、夭折したEvansのベーシストに捧げられた「Piece For Scotty」や、ベーシストGary Peacockのペンによる「Stranger」のような、美しさの際立ったバラード曲だ。他にもスタンダードの「I Love You」をTristano風に仕上げる手腕や、「Blues For Home」におけるブルースの新鮮な解釈など、聴きどころは多い。