Queen – A Night At The Opera (1975)
クラシック音楽のような構成美やメタルのように攻撃的なサウンド、そして神秘的としかいいようのないFreddie Mercuryというボーカリストの存在。Queenによる1975年の名盤『A Night At The Opera』は、初期から積み重ねてきた彼らの独特の作風が一つの頂点に達したアルバムである。その突き抜けた個性は、結果として70年代のポップス界におけるいくつものルールと慣習をうち破った。
アルバムをリードする「Bohemian Rhapsody」は、スタジオで気が狂うような数のオーバーダブを施したオペラ・パートを導入したおかげで6分弱の長さに膨れ上がった。Mercuryの語るストーリーは謎に満ちており、Roger Taylorのハイトーンなコーラスは実に強迫観念的である。それに対して、ラストでなだれ込むハード・ロックのパートにおけるBrian Mayのギターは見事なまでのストレートさで物語に切り込んでくる。こんな実験歌をシングルにするなど当時は狂気の沙汰でしかなかったが、確信のあったバンドは親交のあったDJのKenny Everettにうまく働きかけ、「Bohemian Rhapsody」はノーカットで何度もラジオにオンエアされたちまち大きな話題を呼んだ。
重層的なコーラスの前衛性では「The Prophet's Song」も引けを取っていない。「You're My Best Friend」はJohn Deacon作品として初めてシングル曲となった記念すべきラブ・ソングで、バンドとしても珍しくエレクトリック・ピアノを導入したR&B風ナンバーでもある。「Love Of My Life」はライブにおいては弾き語りで披露されることが多く、Queenのサウンドの美を最もシンプルな形で浮き彫りにする。魅力のあるフォーク・ロックの「'39」は、Mayにとっては憧れのGroucho Marx(アルバム名の元ネタになったアメリカのコメディアン)本人の前で実際に披露した思い出深い一曲だ。
本国で初のチャート1位を記録しプラチナ・ディスクとなったレコードはもちろん、ライブ・ツアーやプロモーション・ビデオにいたるまで、本作に関する全てが見事な成功を収めたと言っていい。それまでQueenに批判的だった評論家やEMIのお偉方たちをしばらく黙らせるには、これらは十分すぎる結果だった。