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Various – The Legendary Delta Blues Session (1990)

 かつてWillie Brownという顔も分からないブルースマンに誰もが夢中になった。Eric Claptonの「Crossroads」の歌詞に登場して大いに名が知れ渡ったこの戦前ギタリストは、当時有名なドッカリー・プランテーションにいたCharley Pattonと交流があったとされている。本作に収録された「Future Blues」におけるBrownのギターは確かに驚異的だ。実際、当時演奏を聴いた人々の中には、BrownはPattonよりもギターが上手かったと言う者さえいたほどだ。
 1930年の5月28日に行われたパラマウント社の歴史的なレコーディング・セッションにはPattonゆかりのブルースマンが集められた。Brownはもちろん、Eddie "Son" Houseのような個性派や、女性ピアニストLouise Johnsonらが名を連ねている。Johnsonの「On The Wall」は典型的なカウカウ・スタイルで、ゴスペル調のボーカルと合わさり力強いブルースを聴かせる。
 Houseがこのセッションに参加したのは奇跡とも言うべき出来事だった。数年前に酒場で人を殺め、パーチマン刑務所への15年の入所を言い渡されていたからだが、幸運にも彼は1年ほどで出所している。戦後に「Death Letter」として歌われる「My Black Mama」はレコード両面にわたる二部構成で、ギターのキレとボーカル、あらゆる面でHouseの全盛期を見事に捉えた歌である。
 Pattonの「Dry Well Blues」が歌われていたとき、ミシシッピ洪水とその後の干ばつの記憶はまだ人々の脳裏に生々しく残っていたはずである。彼らのブルースはロックの参考資料として顧みられることが多くなってしまったが、かつては生活や人生の苦しみをリアルタイムに映しだす鏡だった。
 2000年代に入ってHouseのテイクが新たに発見され、「Clarksdale Moan」と「Mississippi County Farm Blues」がCDに追加収録されている。