見出し画像

Paul McCartney – McCartney (1970)

 The Beatlesの解散宣言と同時に発表されたPaul McCartneyのソロ・アルバムは、彼のファンでさえも長年触れたがらなかった。今でいう宅録のような方式のサウンドは作りこまれておらず、同時期に生まれた他のメンバーたちの作品に比べて完成度に欠けていると評されることも多い。しかし、当のMcCartneyはバンド解散が避けられない状況の中で、他人から理解されることのない巨大な重圧と戦いながら本作を制作していた。
 インド滞在中に生まれたアイデアを発展させた「Junk」は、小品ながらしっとりとしたメロディが印象に残る。この曲のように、いくつかのナンバーはThe Beatlesの活動中に描かれていたものだが、全体を通して聴くとまるで音楽セラピーのドキュメンタリーのようなシーンもある。例えば「Every Night」の歌詞には当時のMcCartneyの苦悩が赤裸々に描かれており、「Man We Was Lonely」ではその孤独を癒すように、妻のLinda McCartneyと親密なデュエットを繰り広げていく。
 また、本作には「Hey Jude」と並ぶ傑作ナンバーが入っている。Lindaに捧げられた「Maybe I'm Amazed」は、このアルバムを名盤たらしめる素晴らしいバラードだ。後年『Wings Over America』で演奏されたライブ・バージョンがシングル・カットされたのも、この曲の人気を証明している。
 ジャムの域を出ない曲やインストも多いが、話題性は抜群だったため本作はアメリカのビルボード・チャートでは見事1位を獲得している。だがMcCartneyがその後数年にわたって受けることになるメディアからの風当たりの強さを思えば、果たして釣り合いが取れていたのかは分かったものではない。