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Long John Baldry And The Hoochie Coochie Men – Long John's Blues (1964)

 ブリティッシュ・ブルースの歴史を紐解けば、Long John Baldryはイの一番に名が挙がる人物の一人である。あだ名の通り、2m以上もある体躯でマーキーをはじめとしたロンドン中のクラブの注目の的だった。なによりもハスキーで色気もある強力なボーカル、脳に直接突き刺さってくるようなけたたましいギターの音は同世代のミュージシャンに大きな影響を与え、以後のR&Bグループの方向性を決定づけた。
 のちにポップなバラード「Let The Heartaches Begin」をヒットさせるが、本作はブルースで埋め尽くされている。シカゴを代表するMuddy WatersとLittle Walterの名曲「Got My Mojo Working」と「My Babe」はギター・ロックのサウンドに直結するもので、一方「Five Long Years」と「Everyday (I Have The Blues)」はそれぞれヨーロッパ圏で絶大な人気を誇ったピアニストEddie BoydとMemphis Slimによる曲だ。いずれもサイケに呑み込まれていなかった時代を反映した実直なサウンドで、大きなアレンジはないがそれがかえって純粋なボーカリストとしてのBaldryの実力を浮き彫りにさせている。
 「Rock The Joint」はこれらの古典を吸収したBaldryが放った渾身のロックンロール・ナンバー。たくみでジャジーなスキャットも冴えに冴えている。ここでも素晴らしいピアノを聴かせるIan Armitは70年代以降もBaldryのセッションに参加した実力派のプレイヤーだ。
 英国ロックの嚆矢となったBaldryは、本作の翌年にはRod StewartらとともにThe Steampacketなるグループを立ち上げる。本格的な作品は残さなかったが錚々たるメンバーが名を連ねており、貴重な音源が再発された際にレコードのタイトルには〈最初のスーパー・グループ〉なる文句が書かれていた。