Aaron Sachs – Quintette (1955)
結婚生活こそ長続きしなかったものの、妻のHelen Merrillや子のAlanとともに音楽一家の一員として知られるAaron Sachs。リーダー作の少ない彼にとって、1955年の本作はピアノレスの編成でクールとスイングの中庸を捉えたような演奏を展開する貴重な一枚である。
聴きどころはなんといってもUrbie Greenのトロンボーンとの流麗なアンサンブル、そして要所で絡んでくるBarry Galbraithのギターの名アシストだ。そしてもちろん、ドラムには名手のOsie Johnson。コンパクトに収まったソロの中に思い切りひらめきを詰め込んだような「One Track」や、ディキシーの味わいを感じさせる「Kingfish」には、10インチ時代らしい旧き良きスイングが息づいている。一方、モダンなテナーに妻への思いを乗せた「Helen」(実際当時の二人の関係はすでに破綻を迎えていたというが)など、アルバム全体の彩りは実に豊かだ。
「If You Are But A Dream」は44年にコロムビア時代のFrank Sinatraが残したラブソングの名曲。現在のリスナーに広く知られるのは57年にSinatraが再録したバージョンだが、Sachsは本作において先駆けて録音している。Galbraithの巧みなギターからSachsのソロへ流れ込む「The Bullfrog」は、ビッグバンドのような厚みをもったアンサンブルが聴きものだ。この素晴らしいアレンジとコンポーズは若き日のQuincy Jonesによるものである。また、同年発表の名盤『Helen Merrill』には、編曲のJonesのほかGalbraithやJohnsonといった本作ゆかりのメンツが多く参加している、という縁もある。