Memphis Slim & Willie Dixon – Aux Trois Mailletz (1962)
1951年に行われたBig Bill Broonzyのロンドン公演はイギリスにフォーク・ブルースのブームをもたらしている。ヨーロッパで最初に受け入れられた音楽はあくまで洒脱なピアノやアコースティック・ギターであり、電気で増幅されたシカゴ系の強烈なバンド・サウンドに海外の聴衆がなじむには、少しだけ猶予の時間が必要だった。Broonzyらと同様にヨーロッパにブルース・ピアノを持ち込んだMemphis Slimは、誰よりも早く現地の気風に溶け込んでみせた。彼は60年代に入ると拠点を完全にフランスに移している。
すでにシカゴで大きな力を持っていた親友のWillie Dixonとの共演コンサートは、当時のパリっ子たちがかくもブギウギ・ピアノを欲していた、という意外な驚きをもたらしてくれる。ピアノとウッドベース、そして現地のジャズ・ドラマーであるPhilippe Combelleを擁した最小限のトリオで繰り広げられる演奏は、SlimとDixonが互いにボーカルを執りながらリラックスした雰囲気で行われている。
Slimの十八番とも言えるハイテンポなロックンロール「Rock And Rolling The House」に始まり、続く「Baby Please Come Home」では観客全員の手拍子を巻き込んで、会場は盛大に盛り上がる。また、かつてDixonがGuitar Redに提供したR&B「Just You And I」をピアノ・ブルースにアレンジする、という珍しい選曲もみられるのも嬉しい所だ。
ブルースを解する粋人を前にしたライブのエンディングを飾ったのは、2分にも満たない「All By Myself」のカバーだ。セットリストのほとんどがオリジナルで占められていただけに、ラストの選曲は気の利いた演出だったと言える。なぜならこの曲のオリジネイターは紛れもないBroonzyその人であるからだ。