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Gracious – Gracious! (1970)

 ヴァーティゴ・レーベルから発表されたGraciousのデビュー・アルバムは、そのヴィジュアル(内ジャケットも要注目)を含め、全体的に非常にアーティスティックな作品である。The Zombies的なチェンバー・ロックのきらめきも見られるが、ヘヴィなギターや、King Crimsonの影響を受けたメロトロンの神秘的なメロディさえも飛び出す。この実験に満ちたサウンドは初期プログレの良心と称えるべきものだが、発表当時はセールスが振るわず本作はたちまちレア・アイテムとなった。
 Alan Cowderoyのブルージーなギター・ソロが素晴らしい「Introduction」は、長尺だが見事なアルバムの導入だ。「Heaven」と「Hell」ではそれぞれ天国と地獄という明確なモチーフの対比が行われている。前者では死後の審判のように強迫観念的なフレーズを繰り返し、後者はハードロック、ラグタイム、そしてクラシックのメロディが目まぐるしく展開する。「Fugue In D-Minor」はタイトル通りのバロック音楽の実践であり、続く「The Dream」はベートーベンのピアノソナタ、The Beatlesのパロディといったあらゆる音楽の要素がおもちゃ箱のように詰め込まれた大作で、おやすみの挨拶を繰り返してはいるがまるで気のふれた白昼夢だ。ジャズのエッセンスを十二分に湛えたMartin Kitcatのキーボードのプレイも冴え渡っている。
 一部のCDリイシューには、彼らの忘れ去られたポリドール時代のデビュー・シングルが収録された。中でも「What A Lovely Rain」は典型的なバブルガム・ポップだが、この曲のプロデューサーは驚くことに英国ミュージカル界の巨匠Tim Riceその人である。