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Merry Clayton – Gimme Shelter (1970)

 Merry Claytonの名を知らない者は多くても、彼女の声を聴いたことがないという人にはなかなかお目にかかれないに違いない。Claytonは、60年代のバンド・サウンドの完成形である名盤『Gimme Shelter』のなかでThe Rolling StonesのMick Jaggerと対等に渡りあってみせた稀代のボーカリストである。1970年にLou Adlerのプロデュースのもと、彼が立ち上げたオード・レーベルと契約を交わして発表されたのが本作だ。このなかで「Gimme Shelter」はClaytonのソロとして歌い直されており、David T. WalkerのギターやJoe Sampleのピアノ、重厚なブラスによって原曲のファンキーさには大きく拍車がかかった。
 James Taylorの「Country Road」やPaul Simonの「Bridge Over Troubled Water」をはじめとした西海岸とニューヨーク生まれの音楽は、彼女のソウルフルな歌声でたちまちスワンプな雰囲気へと早変わりしてしまう。さらに、かつてNina Simoneが象徴的なメッセージ・ソングとして歌った「I've Got Life」も、Simoneへのアンサーを投げかけているように響いてくるから不思議だ。
 セッションには参加しなかったが、Billy Prestonは本作における影の功労者である。彼が提供したブルージーなバラードの「I Ain't Gonna Worry My Life Away」、とことんストレートなファンク・ナンバー「You've Been Acting Strange」がこのアルバムに深みを与えている。
 強いメッセージ・ソングを歌いこなすClaytonは、同年のフォーク音楽フェスの中でJoan BaezやCountry Joe McDonaldといったプロテスト系シンガーとともに聴衆に受け入れられた。その中で歌われたのは本作にも入っている「Bridge Over Troubled Water」や、Bob Dylanの「The Times They Are A-Changin'」であった。