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Erroll Garner – Concert By The Sea (1956)

 アメリカ西海岸のカーメルにあるホールで録音されたErroll Garnerの素晴らしいコンサートは、当初はアルバムとして発表される予定が無かった。本作のマスターは、当時ホールの近くにあった陸軍の駐屯地からやってきたAFN(アメリカ軍のラジオネットワーク)のエンジニアがこっそり回していたテープだ。後で個人的 ●●●に楽しむためのものだったのは明らかだったが、それを聴いたコロンビアのGeorge AvakianはライブLPとしてのリリースを決断した。結果的にアルバム『Concert By The Sea』は、最初の数年間で100 万ドルもの売り上げをレーベルへもたらしたといわれる。
 もちろんこの金額はジャズの世界ではけた外れなものだが、それは本作の内容がジャズの歴史において群を抜いて優れたものだったからだ。独学で左利きという二重の個性を持ったGarnerのプレイは、耳慣れたスタンダードを実にあざやかなスイングへとアレンジしている。「I'll Remember April」では彼のトレード・マークである左手の飛び跳ねるような低音とハイテンポな右手のメロディの対比が見事で、「It's All Right With Me」では演奏の激しさが攻撃的ともいえるレベルにまで高められている。
 陽気な「Red Top」に続く「April In Paris」は、奥ゆかしくも力強いロマンティシズムが溢れた名演だ。Garnerの持つ多彩な魅力が、アルバムの中に過不足なく、それも絶妙な順番で詰め込まれている。
 2015年には嬉しいニュースもあった。それは本作の完全な録音が3枚組のCDで初めて発売されたというもので、特に最後のディスクなどは56年のLPと同じ曲順での収録となっていた。それはこのアルバムが、長い時代ジャズ・ファンたちの耳に親しんできたLPであることの証明だといえるだろう。