見出し画像

Santana – Abraxas (1970)

 John Ford監督の傑作西部劇『三人の名付親(原題: 3 Godfathers)』には、メキシコの英雄サンタ=アナ将軍が巻き起こすと語り伝えられる熱風〈サンタナ〉が登場する。砂漠をさまよう名優John Wayneは、この熱砂の嵐に文字通り圧倒されるのだが、その激しさと熱さはCarlos Santanaの音楽にもそのまま当てはめられるだろう。60年代の末に西海岸の音楽シーンへ風のように現れた彼は、ジャズとロックをサルサのリズムで統合し、ラテン・ロックというジャンルを再定義した。
 Santanaの初期の傑作『Abraxas』は、折衷とバランスのアルバムである。彼のロック・ギターは「Hope You're Feeling Better」で爆発することはあるが、決して行き過ぎた支配をもたらすことはなく、全てのメンバーに見せ場が存在する。Tito Puenteのリメイク「Oye Como Va」ではGregg Rolieの奏でるグルーヴィーなオルガンと見事なアンサンブルを形成し、「Incident At Neshabur」ではパーカッションのリズムがまるで滝のように押し寄せてくる。また、Rolieは「Mother's Daughter」ではソウルに満ちたボーカルを聴かせている。
 「Black Magic Woman」は、Santanaがフィルモアに出演していた際Fleetwood Macのブルースに感銘を受けた経験から取り入れられたレパートリーだ。Santanaのペンによる曲は、本作には意外にも「Samba Pa Ti」というインストしか収録されていない。しかしこれはラテン、ジャズ、ロックいずれの立場から見ても至高の一曲と断言できるほどのナンバーである。
 Santanaの音楽は登場の時点で十分にセンセーショナルだったが、真にその存在を知らしめたのはビルボード200で1位を獲得した『Abraxas』だ。一部の評論家は本作のクロスオーバー精神をあげつらったりもしたが、それが間違いであることはリスナーの圧倒的な賛辞がすぐに証明した。

ℹ️ 自然現象としてのサンタナ風がサンタ=アナ将軍に由来する、という説は現在では否定されている。