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George Wallington Quintet – At The Bohemia (1956)

 George Wallingtonによる本作は、今でこそ知らない者はいない名盤の地位を築いているが、60年代までは幻のレコードの典型を示す一枚だった。もともとは1956年にプログレッシブという小さなレーベルから出たアルバムで、Wallington自身が寡作で知られるピアニストなことも相まって、かなりのレア・アイテムになったのだ。さらに当時まだ無名に近い存在だったDonald ByrdやJackie McLeanが参加していたのも、ファンの興味をひかずにおれなかっただろう。
 肝心の演奏は実にはつらつとしていて、このサウンドをビバップの金字塔ととらえる者もいれば、ここにハード・バップの産声を見出す者もいる。『At The Bohemia』はまさに時代のポートレートを切り取ったアルバムなのだ。
 Wallingtonは厚いアンサンブルに埋もれないパワフルなタッチが特徴のピアニストで、ByrdとMcLeanのホーンが見せる激しい掛け合いも聴きどころである。アルバム全体でみると、Wallingtonの刻むシンプルなイントロに導入される「Johnny One Note」を皮切りに、ハイテンポで緊張感のある「Minor March」や「Snakes」、そして同曲における史上最高のテイクともいえる「Bohemia After Dark」と完璧な展開だ。特に「Minor March」ではベーシストのPaul Chambersがお得意のアルコで濃密なソロを披露する。「Softly, As In A Morning Sunrise」のフレーズを引用した「Jay Mac's Crib」はByrdによる作曲で、「Bohemia After Dark」のラストに挿入された「The Peck」は、文字通りMcLeanの鋭いタンギングをフィーチャーした小品のクロージング・ナンバーである。
 本作は70年代に入ってプレスティッジから再発されたことで、ジャズ・ファンの口に膾炙するようになった。しかし、当のWallingtonはすでに音楽業界は引退してエアコンのセールスマンになっていたという。

ℹ️「The Peck」は鳥のついばみを模した奏法で、ビバップ時代のあいだだけ流行し、すぐに廃れた。