T. Rex – T. Rex (1970)
全盛期と呼ぶにはまだ早いが、1970年はMarc Bolanにとってさまざまな変革が起こった時だった。この年にBolanは彼のミューズであるJune Childと結婚し、バンド名のTyrannosaurus Rexも、プロデューサーTony Viscontiらの勧めで親しみやすいT. Rexに改められている。さらに所属レーベルが〈フライ・レコード〉に変わったのもこの頃だが、いちばんはBolanがコマーシャルに打って出たシングル「Ride A White Swan」の大ヒットである。全英2位というかつてない飛躍は、まるで恐竜が鳥に変異した歴史をなぞっているかのようだ。
徐々にエレクトリック路線に変わりつつあったBolanのギター・サウンドは本作においてより強力になり、前作『A Beard Of Stars』から加わったMickey Finnが魔術のようなグルーヴをもたらしている。「Jewel」はBolanの中性的なボーカルと狂気のギター・ノイズが活きたナンバーだ。また、本作は「Diamond Meadows」などでViscontiの本格的なストリングスが導入され、アルバムを効果的に彩る。
「Beltane Walk」や「Is It Love?」は後のT. Rexを思わせるノリのいいロックで、「Seagull Woman」ではBolanお気に入りのデュオFlo & Eddieが魅惑的なコーラスを披露している。しかし白眉はなんといっても9分弱に拡大された「The Wizard」のリメイク・バージョンで、本作の音楽的エッセンスがこれ以上なく詰まったサウンドに乗って、Bolanの神秘主義が炸裂した夢のようなストーリーが展開していく。
デジタル世代には関係ない話だが、オリジナルのLPではジャケット写真が裏と合わせて見開きになるオシャレな仕様になっていた。ここでBolanはヴィンテージのギブソンを抱えてFinnとたたずんでいるが、このギターは彼の死の数か月前に盗難されてしまったという。