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Roland Kirk‎ – (I, Eye, Aye) - Live At The Montreux Jazz Festival, Switzerland 1972 (1996)

 時に人々から理解されがたいパフォーマンスをしたことで知られるRoland Kirk‎だが、このコンサートの熱量を知らずに好き嫌いを判断してしまうのは早計ではないだろうか。スイスで開かれたモントルー・ジャズ・フェスティバルにおける彼の演奏には、ピアニストのRon BurtonやパーカッショニストのJoe Texidorといった名盤『Volunteered Slavery』の録音メンバーも顔を揃え、白熱のプレイを聴かせる。
 当日はLes McCannの演奏にもゲストで数曲参加し、すっかりエンジンのかかったKirkはおなじみのナンバーと共に、ブラック・スピリチュアルの古典である「Balm In Gilead」のカバーなど珍しい選曲を見せる。公民権運動の旗手であり当時は半ば引退に近い状態だった歌手のPaul Robesonが得意とした曲であり、Kirkは彼に捧げるように力強いブロウを聴かせた。黒人の権利のために歌ったRobesonの生きざまが、続く「Volunteered Slavery」の精神と無関係なはずはない。The Beatlesの「Hey Jude」の一節を巻き込みながらかつてないエネルギーで披露されたこの曲は、この日のセットリストの中で最も熱を帯びている。
 「Blue Rol No. 2」はKirkのフルートと共にBurtonのピアノも冴えわたる感動的なブルースだ。超ロングブレスのソロでDuke Ellingtonの「Satin Doll」を演奏した後は、美しい「Serenade To A Cuckoo」へと展開し、ラストはスピリチュアルな「Pedal Up」でクライマックスを迎えていく。ジャズ祭のワンシーンを切り取ったCDだが、その中で渦巻いているのはソウル、ロック、ゴスペルといった枠を超えたブラック・ミュージックの熱烈な魂に他ならない。