The Gun Club – Fire Of Love (1981)
パンク・ロックは、しばしば「ロックンロールからブルースを抜いたもの」と形容されることがあるが、それは正確ではない。なぜならその理屈ではThe Gun Clubの1stアルバム『Fire Of Love』が、今なおポストパンクの傑作として賞賛されていることへの説明がつかないからだ。
とことん猥雑なロックンロールナンバー「Sex Beat」はあくまでオープニングに過ぎない。アルバムの全貌は、フーンガン(ハイチにおけるヴードゥー教の司祭のこと)をあしらったジャケットが全て物語っている。ミシシッピの伝説的ブルースマンRobert Johnsonによる「Preachin the Blues」のカバー、狂ったスライドギターのイントロが強烈な「Jack On Fire」など、パンクとブルースの垣根を豪快に薙ぎ払いながら、ボーカルのJeffrey Lee Pierceは神秘に満ちたアメリカ南部の民俗文化への憧憬を歌い上げている。
いわゆるジャクソン・スタイルで知られた戦前ブルースマンTommy Johnsonの筆による「Cool Drink Of Water」は、シカゴ・ブルースの巨人Howlin' Wolfの1stアルバムで広く聴かれた曲だ。本作では独特のファルセット歌唱はJohnsonに、バンド演奏はWolfにそれぞれ寄せているところが興味深い。
The Gun Clubはパンクの狂的なビートと南部のルーツ・ミュージックの融合実験に成功した。その影響は90年以降のガレージロックの隆盛だけでなく、アメリカの田舎に潜んでいたR.L. Burnsideらファット・ポッサム系のパンク・ブルースマンたちの発掘にまで及んでいることは疑いようがない。