見出し画像

Bill Anderson – Sings Country Heart Songs (1962)

 ギターを抱えたカントリー歌手がひとたび〈光〉と歌えば、神が罪深い人々に投げかける愛の光と思うのが普通だ。しかし、Bill Andersonの「City Lights」はその伝統を打ち破った。この歌では、故郷から離れて生きる孤独な男の影が、都会の冷たい街明かりに照らされていっそう濃く映し出されている。これほど聴いていて打ち震えるような気分になる歌はそうそうない。
 「City Lights」は1958年にRay Priceによって歌われたバージョンが大ヒットしたことで有名になった。もともとジャーナリスト志望だったAndersonは、その曲作りの才能を買われてデッカ・レーベルと契約し、カントリーのヒット集に欠かせないソング・ライターへと成長する。本作は最初期の彼のキャリアを語るうえで欠かせない曲が多く収録されていて、極貧の生活をユーモラスに描く「Po' Folks」は彼のバック・バンドThe Po' Boysのイメージの元になっている。また、敬虔な母親との思い出が美しく回想される「Mama Sang A Song」はAndersonの線の細いボーカルと優しい語りで歌われる。彼の最大の代表曲「Still」と並ぶ最高のバラードだ。他にも「Walk Out Backwards」や「The Tip Of My Fingers」といったスマッシュ・ヒットや、軽快なギターが聴きものの監獄歌「Columbus Stockade Blues」など、自作やトラディショナルを問わない佳曲がレコードを彩っている。
 2020年代以降もAndersonはカントリー界の長老の一人として活動を続けている。21年発表のリメイク・アルバムのレパートリーには、本作から実に3曲のナンバーが選ばれている。