King Stitt – Reggae Fire Beat (1996)
Winston Sparkesは1950年代からジャズやR&Bといったアメリカの音楽文化にどっぷりと触れ、Clement "Coxsone" Doddが所有していたサウンド・システムではKing Stittの芸名で長きにわたってMCを務めていた。Sparkesは生まれつき顔面の奇形を抱えていたが、彼はそんな障害をあえて自らの強みにしてキングストンの人々から人気を博した。その特異な容姿はDJのネタとして大々的にフィーチャーされている。
「Lee Van Cleef」はそんなSparkesのキャリアにおける極めつけの一曲といえる。Sparkesは無骨なマイクさばきでイタリア西部劇の傑作『続・夕陽のガンマン』の敵役に自らをなぞらえ(※)、映画スターのClint Eastwoodに喧嘩を吹っかけている。この強烈なセリフ回しは一度聴いたら忘れられないほどだが、これは当時ヒットしていたThe Upsettersの「Clint Eastwood」に宛てたものでもあるのだろう。
「Fire Corner」ではThe Dynamitesが繰り広げる「Shoo-Be-Do」のファンキーなリズムが、Sparkesのシンプルだが情熱的なDJでみるみる煽られていく。「King Of Kings」はU-Royの初期の名曲「This Sound Rule The Nation」にアンサーしたもので、これは彼の王者としてのプライドの表れだ。
SparkesのDJスタイルは、当時ラジオから流れていたアメリカの司会者たちの大仰なしゃべりを取り入れたもので、現在からみればかなり原始的だ。しかし、後にU-Royをはじめとする後進たちが脚光を浴び、DJがスターダムへとのし上がる土壌を作ったのはまぎれもなくSparkesなのだ。