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Marvin Gaye – What's Going On (1971)
本作の前年、Marvin Gayeはそれまでのキャリアを2枚のアルバムで決算した。Tammi Terrellとのデュエットをまとめた『Greatest Hits』と、Gayeがスーパーマンに変身しているジャケットで有名な『Super Hits』だ。だがその裏で、Terrellは脳腫瘍により24歳の若さでこの世を去り、悲しみに暮れるGayeはヒットへの重圧に苦しみ、ドラッグにもますます溺れていった。彼はスーパー・ヒーローではなかった──『What's Going On』を聴くときに知っておくべき事実はそれだけだ。
71年の本作はスイートなGayeのイメージを覆し、リスナーの眼をクラブやベッドルームの外にある現実へと向けさせた。冒頭のタイトル曲でGayeは、穏やかなリズムとゴスペル風の力強いコーラスと共に、とびきりシンプルな言葉で平和を問いかける。上質なムードに包まれたサウンドは、60年代のソウルを的確にアップデートしながら「Save The Children」や「Mercy Mercy Me」で聴き手の正義に挑戦する。「What's Happening Brother」はベトナムで従軍していた実弟の経験をリアルに反映しており、対してラストのメロウ・ファンク「Inner City Blues」で描かれている不安は漠然としていて、それがかえって恐ろしい気分にもさせる。
本作の中で実践されたことは、レーベルのモータウンにとっても初めてづくしだった。Gayeは全篇の歌詞と参加ミュージシャンの名を、ジャケットに余さず記載させた。この前例のないセルフ・プロデュース体制や政治的コンセプトをめぐっては、レーベルとの間でかなりの対立が生まれたが、それも無理ないことだろう。
当時はリリースさえ危ぶまれたものの、本作は名実ともに最高のソウル・レコードと認められた。ローリング・ストーン誌は2020年に〈史上最高のアルバム500〉の改訂版リストのトップに本作を据えている。だがそれは、Gayeの問いかけへの答えが今もなお見つかっていないことが示された瞬間でもあった。