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Ladysmith Black Mambazo – Shaka Zulu (1987)

 Paul Simonのキャリア中期を繊細に彩った1986年のアルバム『Graceland』は、彼の感覚的な歌詞とアフリカの洗練されたコーラス・ワークが見事に結びついた最高傑作だ。Simonだけでなく世界中のポップ・ミュージックの潮流の転換に働きかけた立役者こそがLadysmith Black Mambazoであり、彼らが翌年発表したアルバム『Shaka Zulu』は、南アフリカの迫害政策の中であえいでいたズールーの音楽が世界へ向けて発信されるきっかけにもなった記念すべき作品でもある。
 収録曲のいくつかは以前に発表されたナンバーを再録音したものだ。キスの音を交えて重層的なコーラスを繰り広げる「Hello My Baby」は70年代のアルバム『Ezinkulu』に収録されていたピュアなラブソングであり、本作では英語に翻訳され歌い直されている。アメリカのゴスペルに近い雰囲気を持った「How Long?」は、リズムセクションが無いにも拘らず、〈ルンバ〉のフレーズを繰り返すコーラスの中に確かなグルーヴを感じ取ることができるだろう。特に宗教的な「Golgotha」では、リードのJoseph Shabalalaの柔らかなボーカルを中心としてキリスト教の光を高らかに歌い上げている。
 言語の壁を越えつつも伝統的な唱法を崩すことはしなかった『Shaka Zulu』は『Graceland』と同様に高い評価を獲得しグラミー賞を受賞している。全編アカペラで構成された歌声の中には、神への信仰や人の愛と同時に、アパルトヘイトに屈しなかった人々のたくましさも息づいているのだ。