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Pearls Before Swine – One Nation Underground (1967)

 Tom Rappを中心に結成したPearls Before SwineはThe Fugsにインスパイアを受け、彼らと同じレーベルのESPディスクからデビューを果たした。自由なサウンドと巧みなRappの詩作を併せもった反骨的スタイルはラジオを介して広まり、反戦に沸く大学生を中心に人気を集めた。
 彼らがESPを選んだことは、のびのびとした本作の音作りに大きなプラスをもたらしたといえる。バンドは名プロデューサーRichard Aldersonの元でインドからバロックに至る様々な楽器をごちゃまぜに演奏し、遊び心も発揮した。「(Oh Dear) Miss Morse」は、Fワードをモールス信号の独特なリズムに隠し込んだ(もちろんラジオを聴くボーイスカウトにはすぐにバレた)クレーム覚悟の一曲だ。もう一つの恩恵はジャズ・ドラマーWarren Smithの参加だろう。時の政権を痛烈に批判した「Uncle John」は、Rappの怒りに満ちた叫びとSmithのダイナマイトのようなドラムが聴きものになっている。
 シングル・カットされた「Drop Out!」はRoger Crissingerのオルガンがメロディアスで、メタファーに満ちた「Another Time」は実に幽玄な仕上がり。「Ballad To An Amber Lady」は無駄を極力そぎ落とした美しいアレンジであなたの心に忍びよる。作中特にぶっ飛んでいる「I Shall Not Care」などは、初めて聴く人なら曲の造りをつかむのさえ一苦労だろう。
 マタイ伝の言葉に由来しているバンド名は、〈豚に真珠〉として日本語のことわざにもなっている。ただ皮肉なのは、この傑作の価値を豚が知ってしまったことだ。アルバムは20万枚を売り上げたといわれるが、ESPの言い分によると流通の多くが海賊盤だったため、メンバーの元にまとまった金が入ることは無かったそうだ。