Arthur Gunter – Black And Blues (1971)
曲がヒットしすぎるというのも考えものだ。
1954年、ナッシュヴィルのブルースマンArthur Gunterは、当時まだ新進レーベルだったエクセロから初めてのシングル「Baby Let's Play House」を発表し、これが思わぬヒットとなった。カントリーの聖地としてのナッシュヴィルらしい土地柄がよく表れたサウンドには、南部のブルースながらもカラッとした気風のよさが感じられる。73年のアン・アーバー音楽祭のライブではオルガンを交えて演奏され、よりブルース・ロックに接近したアレンジがなされたのも印象的である。
だがこの曲が音楽史に残る名作になったのは、若きElvis Presleyがカバーしたバージョンが翌年にビルボードのカントリー・チャートに入ったからだ。エクセロのオーナーであるErnie Youngによれば、いわゆるオリジネイターとなったGunterは自身のシングルの売り上げよりも多くのロイヤリティを得ることになったというが、その後に発表した曲は大きなヒットには繋がっておらず、さらに言えば、Gunterに関する文章でPresleyについて触れていないものに出会うことはまず不可能だ。
本作は「Baby Let's Play House」を含めたGunterのエクセロにおけるキャリアを包括した最初のLPであり、またこれを聴きこんでいくと彼のブルース・スタイルが実はとても多岐にわたっていたことが伺えるのである。スロー・テンポで暗く沈み込むような「No Happy Home」、ピアノの音色を効かせたモダン・スタイルの「Workin' For My Baby」。そして「Baby Can't You See」はシカゴ、というよりはJimmy Reed風に決まっているブギー・ナンバーだ。「Baby You Better Listen」はドラムとホーンがいずれもパワフルで、Gunterのハスキーでクールなボーカルを絶妙に引き立ててみせる。
「Baby Let's Play House」のヒットは、黒人の音楽文化と白人の音楽マーケットが一本の線で繋がった歴史的な瞬間である。だが一曲だけでGunterという稀有なシンガーを語ることはできない。このLPにはかくも個性的で魅力的なブルースがたくさん詰まっているのだ。