Luther Tucker – Sad Hours (1994)
Robert Jr. Lockwoodにギターを習い、James CottonやRice Millerといったシカゴ・ブルース・ハープの名演を支えてきた実力派がLuther Tuckerだ。マッチョな体格から放たれるパワフルなトレモロ奏法は、サイドマンとしての彼の名刺代わりのようなものだった。70年代には独立したバンドを抱えて多くのクラブで演奏するようになり、そのとき人々はTuckerが職人的なギタリストであると同時に素晴らしいシンガーであることにも気づかされた。
Tuckerほどのブルースマンのリーダー作が彼の生前にリリースされなかったのは、返す返すも奇妙なことだ。死の翌年に発表された『Sad Hours』は、当時の流行りだった重めのリズム・セクションにソリッドなギターが乗ったファンキー・ブルースの名盤である。「Can't Live Without It」などはその最たる例で、プロデューサーでもあるMark Kazanoffのブラスが絶妙な味付けを施した。
ハードなギターが気持ちいい「Five Long Years」のように、誰もが知るスタンダードにこそTuckerの持ち味が活きているともいえるが、Lockwoodのオハコだった「Sweet Home Chicago」だけは師匠のスタイルに敬意を払うように丁寧に歌い上げており、それもまた感動的だ。「Luther's Tribute To Elmore」は意外にもおなじみの三連のリフではなく、「Bobbie's Rock」を下地にしたようなギタージャムだ。さらに意外な選曲には「Canadian Sunset」が挙げられるが、ジャズの素養もあったTuckerはいとも軽快に弾きこなして見せる。
様々なスタイルを見せながらも一貫した個性を見せつけるのが真のミュージシャンだ。アルバム『Sad Hours』はTuckerの偉大さを伝えるのに十分な魅力にあふれている。