Don Covay – The House Of Blue Lights (1969)
ソングライターとしてだけでなく歌手、プロデューサーとしても活躍したR&B職人Don Covayだが、『The House Of Blue Lights』は彼のアレンジャーとしての意欲作だ。60年代後期らしいサイケのテイストも捉え、年代とジャンルを縦横無尽に駆け巡っているが、本作に通底しているのは戦前から続くブルース・フィーリングである。それはアコースティックな収録曲「Steady Roller」や、Jefferson Lemon Blues Bandという名前のバックバンドからも感じ取ることができるだろう。
アルバムは名曲「Key To The Highway」の大胆なロック・サウンドに始まる。時代を踏まえれば、ギタリストJoe Richardsonとの共作「Mad Dog Blues」で大いにギターをかき鳴らしているのは当然としても、続く「The Blues Don't Knock」では一転してMemphis Slimのような深みのあるボーカルを披露する。Covayの器用さには驚かされるほかはない。
Covayがロックを意識していたのは明らかだ。フルート、オルガン、挙句の果てにはThe Beatlesのシタール曲をほうふつとさせる展開まで現れるため、この1枚のLPはあっという間に過ぎ去ってしまう。サイド・ギターとハーモニカで存在感を出しているのは白人ブルースマンJohn Hammond, Jr.であり、また「Homemade Love」での女性コーラスの使い方は、まさに同時期のThe Rolling Stonesそのものである(ボーカルのMargaret Williamsはギタリストとしてもクレジットされている。彼女はいったい何者だろうか?)。
1969年はあらゆる音楽ジャンルがサイケデリックの波に呑み込まれていた時代だ。ブルースの大御所が奇妙なブルースを披露し、評論家から揶揄されていたのを尻目に、最も自然に時流をとらえたサウンドを生み出していたのがCovayなのだ。