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Matching Mole – Matching Mole (1972)

 Soft MachineとCaravanというカンタベリーの重要バンドにそれぞれ在籍したものの、グループの急進的な方向性に嫌気がさして脱退したRobert WyattとDave Sinclairは新たにMatching Moleを結成した。だが、Matching Moleというバンドの萌芽がどこにあったかはやや曖昧だ。Wyattが70年に発表した『The End Of An Ear』にSinclairが参加した時か、あるいは『Soft Machine Third』の内ジャケットの中でメンバーたちが部屋で居心地悪げに座っていた時だろうか。少なくともSinclair自身は後のインタビューの中で、Matching Moleへの参加の打診がCaravanの脱退のきっかけになったという噂をやんわりと否定している。
 持ち前のボーカルを活かす場を手に入れたWyattは、アルバムの一発目を永遠の名曲「O Caroline」で飾った。これ自体は有名な女性活動家Caroline Coonに捧げられた美しいラブソングだが、アルバムの全体はひねくれた言語センスとカンタベリー特有の前衛的なジャズ・サウンドに満ちている。ギターのPhil Millerの筆による「Part Of The Dance」は各メンバーの持ち味を最大限に引き出せるように作られた大曲だ。「Beer As In Braindeer」ではさらにフリーキーな演奏が続くが、「O Caroline」のイメージだけで本作を聴いた人はこのバンドの二面性に面食らうことだろう。
 バンドはスタジオとステージの両方で精力的な活動を広げ、当時のライブの音源も豊富に残っている。しかしSinclairは本作の直後に脱退し、のちにMillerとともに新バンドを結成することになる。後釜に収まったのは本作の「Dedicated To Hugh, But You Weren't Listening」の中で見事なキーボードを披露したDave MacRaeだった。