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Muddy Waters & Otis Spann – In Concert 1958 (1982)

 Muddy Watersの歌う本物のブルースをイギリスに伝えるという大業のために、発起人のChris Barberはかなりの苦労を強いられたことだろう。Modern Jazz QuartetのピアニストJohn Lewisの紹介で彼を渡英させることになったはいいが、米英の音楽家組合で交わされていた〈相手国での演奏禁止〉協定をかいくぐるために、バンド形式でのプレイは放棄しなければならなかった。そのため、WatersとOtis Spannの二人、そしてBarber's Jazz BandのドラマーだったGraham Burbidgeのみという珍しい形態でコンサートは展開された
 当時のイギリスの聴衆には、Watersのアンプリファイド・ギターが当惑をもって受け入れられたのは確かなようで、直前のニューカッスル公演では、現地の未熟な評論家によって彼のギターは的外れな酷評を浴びてしまった。そのせいか、本作に録音されたマンチェスター公演では、Watersはカントリーや古典を意識してるようだ。「Rollin' Stone」は完全に彼のソロ・プレイになっており、また「Blues Before Sunrise」ではLeroy CarrとScrapper Blackwellのスタイル(これは非常に貴重な録音である)に立ち返っている。
 「Walking Thru The Park」からはジャズ・バンドを交えた賑やかな演奏を繰り広げる。Watersがニューオーリンズのスタイルで、ましてや女性ジャズ・シンガーと共にブルースを歌うのは全く新鮮な体験だ。評論家の反発などどこ吹く風といった盛り上がりで、この一連のツアーに手ごたえがあったのはオーディエンスの熱狂を聴けば明らかだ。Watersは『At Newport 1960』の名演の2年前から、白人聴衆の土壌へブルースの種を蒔き始めていたのである。