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The Doors – Other Voices (1971)
自身の悪名高いライブ・パフォーマンスに関する裁判が一段落するや否や、Jim Morrisonはパリへ向けて出国してしまった。そのため、残されたThe Doorsの3人のメンバーに出来ることは、次回作をメイン・ボーカル不在でとにかく録音することだった。謎の死によってMorrisonがバンドに帰ることはついに無かったため、『Other Voices』は長い間公式からも不当に無視されてきたアルバムだ。
バンドに代替のボーカリストが迎えられることはなく、Ray ManzarekとRobby Kriegerが歌っているが、いずれもがMorrisonのボーカル・スタイルを踏襲(彼が戻ることを想定していたのだから当然だ)している。ルーズなブルース「In The Eye Of The Sun」では後期の彼らのサウンドがそのまま継承された。「Variety Is The Spice Of Life」や「Wandering Musician」はKriegerのナンバーであり、彼のギターとManzarekのピアノの絡み合いには、Asylum Choirの黄金のコンビにも似たスワンプ・ロック的美学が垣間見えている。
「Ships W/ Sails」は穏やかだが確かな熱気をはらんだフュージョンであり、Kriegerのジャズ・ギタリストとしての素養が強く反映されている。不穏な陽気さを漂わせる「I'm Horny, I'm Stoned」もさることながら、Manzarekが吠えまくるロックンロール「Tightrope Ride」は、Morrisonのボーカルをひときわ恋しくさせる曲だ。意味深な歌詞の中には、Morrisonと同様に27歳で謎の死を遂げたThe Rolling StonesのBrian Jonesが登場している。
不世出のボーカルを支えたバンドとしての強固なサウンドは失われていないが、それが却ってMorrisonの不在という穴をさらに大きく見せているのも皮肉な事実だ。次作『Full Circle』でもThe Doorsは果敢に新境地を切り開いているが、結果としてはそれが彼らのオリジナル最終作となった。