Sparks – Kimono My House (1974)
50年以上に及ぶキャリアの中で何度も生まれ変わってきたSparksだが、実際3枚目のアルバム『Kimono My House』が生まれるまでに彼らは二度生まれ変わっている。一度目はHalfnelsonからSparksへとバンド名を変えた時で、二度目はアルバム『A Woofer In Tweeter's Clothing』の後、渡英してRonとRussell Maelの兄弟以外のメンバーをそっくり入れ替えた時だ。それもすべて初期の二枚のアルバムが、画期的な内容だったにもかかわらず商業的に失敗したからで、プロデューサーのThaddeus James Lowe(元The Electric Prunes)は失望のあまり音楽業界を去るほどだった。
転機となったのは、本作に収録された「This Town Ain't Big Enough For Both Of Us」と、BBCの音楽番組〈Top Of The Pops〉への出演だ。女声のように甲高いRussellの歌声と、オペラのような仰々しいサウンド、加えてヒトラー髭を生やしたRonが淡々とキーボードを繰るビジュアルが、全英に放映され、翌日の話題をかっさらった。
華麗な「Amateur Hour」や目もくらむような不条理の「Falling In Love With Myself Again」は今聴いても驚かされ、「Hasta Mañana, Monsieur」では様々な国の言葉が飛び出してくる。この曲に含まれる、アルバムのタイトルにもなった〈Kimono My House〉という一節は「Come On-A My House」というジャズ・スタンダードのもじりだ。軽快なロック・ナンバーの「Talent Is An Asset」はパンク風だがSparksらしいポップさがしっかりと感じ取れる。
ジャケットにメンバーの姿もタイトルも描かれていないこの不敵なアルバムは、イギリスでゴールド・ディスクに認定された。Sparksはその後もニューウェーブやシンセ・ポップに影響を与え続け、『Kimono My House』はコアな彼らの音楽世界に続く最もとっつきやすい門戸であり続けている。