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Various – Harmonica Blues (Great Harmonica Performances Of The 1920s And '30s) (1976)

 ブルース・ハーモニカという楽器はシンプルな構造かつ手軽であったがゆえに多くのブルースマンに浸透し、1930年代の時点ですでに様々な演奏の技法が確立していた。古典音源の発掘に定評のある名門ヤズー・レーベルが1976年に編集したアルバム『Harmonica Blues』は、戦前ブルースの中でもピアノやギターに並ぶ花形役者であるハーモニカにスポットライトを当てたものだ。選曲眼は並大抵のものではなく、伝説的なカントリー・デュオAshley & Fosterのナンバーまでも収録されている徹底ぶりである。
 一曲目のFreeman Stowersによる「Railroad Blues」からして鮮烈で、超絶技巧による列車の形態模写である。この手の曲はSonny Terryの「Fox Chase」が有名だが、Stowersはブロウとシャウトを同時に発するスタイルを、Terryに10年近く先駆けて録音している。心が躍るブルース「Crazy About You」を歌うState Street Boysは、Jazz GillumとCarl Martin、さらにBig Bill Broonzyという夢のようなメンバー。戦前のシティ・ブルースの豊かなエッセンスが詰まっている。
 「My Driving Wheel」ではピアニストLee Brownのバックで鳴るハーモニカの巧みさに思わず息をのむが、これを吹いているのがなんと若き日のRobert Nighthawkというのだから驚きである。Chuck Darlingの演奏は、ブルースとラグという対照的な2曲がフィーチャーされているのが興味深く、またAlfred Lewisによる「Friday Moan Blues」のパワフルさも強烈に印象に残る。そしてダメ押しの「Davidson County Blues」では、ピアノでおなじみのカウカウ・スタイルをDeFord Baileyがハーモニカで再現してみせることで、ラストにブルース・ファンの琴線を見事にくすぐってくるのだ。
 『Harmonica Blues』は、洒脱なバンド・サウンドから力業のソロ・プレイにまで至る幅広い音楽スタイルを、深い見識と心憎いほどのセンスで網羅している。数あるヤズーのアルバムの中でも屈指の名篇であり、ブルースの奥深さを味わうにはもってこいの一枚だ。