Jim Kweskin – What Ever Happened To Those Good Old Days At Club 47 (1968)
Jim Kweskinは、ボストン大学の学生だった頃からアメリカのルーツ音楽に深く傾倒した。同じくフォーク・ブルースのリバイバルに沸くニューヨークのシーンを後目に、自身のバンドを率いてヴァンガード・レーベルから多くの傑作を発表してきた彼には、戦前に流行したジャグ・バンドのスタイルを復活させた大きな功績がある。
Kweskinのソロ名義で発表された1968年の本作は、バンドのメンバーだったMaria MuldaurとFritz Richmondをフィーチャーし、ボストン大学のお膝元の〈クラブ47〉という会場で録音したライブ盤である。当時の若き知識層が形成していたコミュニティが持つ、おだやかで親しみのある雰囲気を感じられる貴重な一枚だ。
クラシック・ジャズの愛好家なら、本作が多くのジャズ・スタンダードで構成されていることに驚くだろう。Bing Crosbyが戦前にヒットさせた「Mississippi Mud」や、ニューオーリンズの音楽家たちに愛された「Bill Bailey, Won't You Please Come Home」、サイレント期の映画スターRudolph Valentinoにインスパイアされた「The Sheik Of Araby」など、多くの古典がKweskinの揚々としたサウンドで料理されている。特に「Bill Bailey」にはカズーの音色がまるでトランペットのようにスイングするという、本作ならではの楽しさがある。
器用で遊び心のあるKweskinは、「La Bamba」でThe Beatlesのパロディを交えて笑いを誘い、「Good Morning Little Schoolgirl」では一転して優れたブルース・ギターを披露して、観客たちを魅了する。Muldaurの美しいフィドルが冴えわたる「Ella Speed」も聴き逃せない。使われる楽器は卑近でも、ここで紡がれている音楽のきめ細やかな風合いは、言葉にしがたい温かみが満ちている。