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フリーランス医師が「労働衛生コンサルタント(保健衛生)」に合格した話【R5年度合格】

序文


この度、令和5年度の労働衛生コンサルタント(保健衛生)に合格しました。その経験やノウハウを発信したいと思い、noteをはじめることにしました。

自己紹介


私は、フリーランス医師です。
専門医は持っていませんし、取得するのも諦めています。
非常勤勤務を組み合わせながら生計を立てています。

自分の人生設計を考えたときに、将来の選択肢が広がるように、労働衛生コンサルタント(保健衛生)を取りたいと思いました。医師免許以外資格がないのは色々と不利なので…

取りたいと思ったのは、令和3年くらいだったと思います。

さっそく過去問を見てみましたが、筆記試験も口述試験もチンプンカンプン。

法律の用語が多いように感じましたし、扱われている話題はなじみないものばかりです。

噂によると、産業医の経験がないと合格困難ともいわれています。

なので、いったんあきらめました。

まずは産業医に


まずは、講習を受ければなれる産業医を目指しました。すべては労働衛生コンサルタントの口述試験で、「産業医経験があります!」と言うためです。

産業医となるには、医師であることに加え、要件があります。具体的には、以下の5つです(労働安全衛生規則第14条第2項)。

①労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣が指定する者(法人に限る)が行うものを修了した者。(「日本医師会の産業医学基礎研修」と「産業医科大学の産業医学基本講座」がこれに該当します)

②産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であってその大学が定める実習を履修したもの

③労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの

④学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師の職にあり、又はあった者

⑤その他厚生労働大臣が定める者(現在、定められている者はありません)

⑤は論外で、②④は私には無理です。
なので、①③が私が産業医になる方法です。

しかし、③労働衛生コンサルタント(保健衛生)は、先述の通り、一発目からは厳しそう。

消去法的に、①の講習を受けることにしました。

繰り返しになりますが、①の研修は「日本医師会の産業医学基礎研修」と「産業医科大学の産業医学基本講座」が該当します。

産業医科大学の講座は値段が高すぎる


産業医科大学の講座は、受講すると「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修」を修了したことになるので、「産業医」となります。

また、日本医師会認定産業医を申請すれば、「日本医師会認定産業医」となります。

それに加えて、労働衛生コンサルタント(保健衛生)試験の筆記試験が全科目免除になります。

効力が強い講座なのですが、受講料が高額です(<北九州市開催> 230000円、<東京開催> 550000円)。私は申し込みませんでした。

「産業医」と「日本医師会認定産業医」は異なる概念です


ちなみに、「産業医」と「日本医師会認定産業医」は厳密には異なる概念です。

「産業医」は労働安全衛生規則第14条第2項に規定されているもので、先ほど挙げた①~⑤を満たせば「産業医」です。更新は必要ありません。労働安全衛生規則第14条第2項に更新が必要とは書いてありませんからね。

一方で、「日本医師会認定産業医」というのは、「日本医師会長が認定した産業医」ということで、いわば民間資格的な(?)ものです。この日本医師会認定産業医は登録有効期間が5年なので、更新が必要になります。

つまり、日本医師会認定産業医となって、5年の期限が切れた場合はどうなるかというと、「産業医」ではあるが「日本医師会認定産業医」ではない状態となります。

厳密にいえば、産業医としての活動はしていいのですが、企業や仲介会社に提出する資料が、期限の切れた日本医師会認定産業医の書類になるわけです。

まあ、変な奴として扱われるでしょう(笑)「この日本医師会認定産業医の書類は認定有効期間が過ぎていますよ」と言われて「確かに過ぎていますが、法的にはこれでOKなのです」なんて会話する羽目になります。

まとめると、産業医として仕事をしていく場合は、下記のどちらかが現実的です。

・日本医師会認定産業医になり5年ごとの更新を行う
・労働衛生コンサルタント(保健衛生)合格

労働衛生コンサルタント(保健衛生)は更新不要なので魅力的です。

「東京都医師会・東京医科歯科大学産業医研修会」を受講


話を戻します。産業医科大学の産業医学基本講座が高額で断念した話でした。

ネットで検索してみると「東京都医師会・東京医科歯科大学産業医研修会」が先着順で10万円以下でしたので、申し込みし、受講しました。

私の時は先着順の申し込みだったので、定刻に急いでWeb申し込みしたのを覚えています。

今年もやるみたいなので、興味のある方は下記ページをご確認ください。

2024年8月15日(木)~21日(水)
https://www.tmd-ishikai.jp/info/training.html

研修会自体は、いくつか小グループに分かれて行う演習のようなものがありましたが、基本的にはホールで講義を聞くだけです。

ちなみに、コツコツ小分けに単位を集める方法もありますが、管理が難しそうなのでおすすめしません。集中講座が楽だと思います。

研修会は医科歯科大以外にも、獨協医科大学のものがあります。
2024年8月10日(土)、8月11日(日)、8月12日(月:祝日)、9月21日(土)、9月22日(日)、9月23日(月:祝日)
https://www.dokkyomed.gr.jp/doso-kai/2024/04/08/sangyoi/

こちらも、効率よく単位が集められそうですね。

産業医経験を積む


東京都医師会・東京医科歯科大学産業医研修会を修了したことで、「産業医」になりました。また、医師会に申請し「日本医師会認定産業医」にもなりました(審査・登録料は10000円でした)。

※基礎研修 50 単位修了者の新規申請は、研修最終受講日から 5 年以内に 1 回限り申請できることとなっています。近いうちに産業医活動をしないのであれば、あえて申請を遅らせるというテクニックもあります。そうすると、更新を最長10年後に遅らせることができます。

ところで、産業医業務には「一社目の壁」というのがあります。産業医経験がない産業医に依頼する企業は少ないということです。

しかし、私は、民間の紹介会社に登録して情報収集し、ホームセンターの嘱託産業医になることができました。

業務は、隔月で衛生委員会に参加し、印鑑を押す+少々コメントするだけです。1回あたり20分の負担の少ない仕事です。しかし、紛れもなく産業医経験です。

「嘱託産業医経験のある産業医」となったのを機に、労働衛生コンサルタント(保健衛生)を目指します。

筆記全科目免除できる講習会がやっていない!


医師の場合、労働衛生コンサルタント(保健衛生)は2パターンの挑み方があります。

パターン1:「日本医師会が行う産業医学講習会」か「産業医科大学が行う産業医学基本講座」を受けて筆記全科目免除になり、口述試験だけ受ける

パターン2:筆記は労働衛生関係法令1科目を受験してから、口述試験に挑む(医師は労働衛生一般と健康管理が免除です)

(厳密にいうと、労働衛生一般や健康管理を受けたければ受けてもいいです。筆記は「合計得点がおおむね6割以上」で合格なのと、労働衛生関係法令がやや点数がとりにくいことを踏まえると、労働衛生一般や健康管理が得意ならあえて受けるという方法もあります。)

皆さんならどうしますか?

私は筆記免除を希望しました。産業医大の講座は高額ですが、日本医師会が行う産業医学講習会は3万円弱と許容範囲でした。会場で話を聞くだけで、筆記が免除になるのは効率が良いと感じました。

また、筆記免除に回数制限がないのも大きいです。筆記免除がない場合、筆記に合格して口述が不合格だった場合、翌年も筆記から受けなければなりません。しかし、筆記免除になっていれば、永遠に口述試験だけを受ければよく、不合格でも再チャレンジしやすいと思いました。

しかし、私の受験した2023年は日本医師会が行う産業医学講習会講習会が開催されませんでした。

筆記試験は「労働衛生関係法令」のみ受験し合格

私は、筆記を受けました。試験範囲は狭いほうがいいと思ったので、労働衛生関係法令だけを受験しました。

結果は15問中12問正解で筆記試験合格でした。私が受けた年の筆記合格率は56.6%だったようです。

事前学習も十分にでき、過去問は10年連続で合格でしたので、概ね不安なく受験することができました。

問題集を2冊に絞って、まとめノートを作成しながら勉強しました。用いた書籍名や筆記試験の勉強方法については下記で解説しています。

労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)の労働衛生関係法令の学習方法|Dr.けちんぼ (note.com)

補足:筆記免除になる講習会・講座の情報


ちなみに今年は筆記免除になる日本医師会が行う産業医学講習会が開催されます。非会員で27000円です。下記をご参照ください。
https://www.sangyo-doctors.gr.jp/Notice/Details/9013
https://www.sangyo-doctors.gr.jp/NoticeAttachFile/9013/55th_details&program_Ver1.pdf

先述したとおり、産業医大の産業医学基本講座は受講料が高額です(<北九州市開催> 230000円、<東京開催> 550000円)。
https://www.uoeh-u.ac.jp/medical/training/course/kihonkoza.html

合格率50%の口述試験


筆記試験(労働衛生関係法令)は正答率80%とそこそこ高得点でパスし、産業医経験も一応ある。まさに万全の体制で口述試験の勉強を開始しました。

しかし、マイナー資格のため、市販されている参考書がありません。

日本労働安全衛生コンサルタント会が行う「労働衛生コンサルタント(保健衛生)口述試験受験準備講習会」を受けました。

労働衛生コンサルタント( 保健衛生)口述試験受験準備講習会 | 日本労働安全衛生コンサルタント会 (jashcon.or.jp)

3時間の講義で29000円でした。後日アーカイブ(動画)が閲覧可能になったり、講義資料のパワーポイントがダウンロードできます。とくに、加部勇先生のパワーポイントは700枚以上あり圧巻でした。

その講習会を受けた後に、年末からまとめノート作りを開始しました。有名な柳川行雄先生のWebサイト(https://osh-management.com/)や先ほどの講習会の情報をもとに、解説本と問題集に分ける形でまとめノートを完成させました。

作成するのに1か月弱かかりました。そのまとめノートですが、下記でご購入いただけます。このまとめノートと最新版の労働衛生のしおりを使って勉強すれば、口述試験は合格できると自負しています。

労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)口述試験対策~問題編~|Dr.けちんぼ (note.com)

労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)口述試験対策~解説編~|Dr.けちんぼ (note.com)

そして、試験までの数週間は、ひたすらまとめノートを暗記しました。この暗記作業に関しては、いろいろな本を読むのではなくて、同じ資料を見るほうがいいでしょう。

私はまとめノートを見ながら、暗唱したり、妻に問題を出してもらったりして、内容を暗記していきました。

いざ本番。下記がそのご報告です。

口述試験の内容


職務経験は?
産業医として対応した具体的事例は?
労働災害が発生した時の企業の責任にはどんなものがあるか。
事業主が従業員の健康診断をしなければいけない理由は?生活習慣病は個人の責任ではないのか?
3管理とは何か?
作業環境管理・作業管理・健康管理には具体的にどんなものがあるか?
化学物質の自律的な管理について、背景と概要を説明せよ。
OSHMSについて教えてください。
保護具にはどのようなものがありますか?
熱中症の作業環境管理は?
WBGTについて教えてください。
具体的に、どのように測りますか?
お金がなくてWBGT測定器が買えないと事業主が言っている場合どうしますか?
溶接作業現場の管理はどのようにしたらよいか。
溶接作業現場ではどのように呼吸用保護具を選んだらよいか。
要求防護係数はどのように計算するか。
作業環境測定について教えてください。
粉塵の粒径と、呼吸器のどの部位に付着するか、関係性を説明してください。

感想


90%くらい答えられました。

終盤に真ん中の先生から総評のようなものがあり、「溶接作業では局所換気装置が設置できない場合が多いので、全体換気装置+呼吸用保護具という対策となっている現状はよく把握しておいてください」と教えてもらいました。

また、「気管支に付着した粉じんは線毛の運動で排出されるが、4μm以下の肺胞に達するものは体内に残ってしまいじん肺の原因になる」という点も教えていただきました。

真ん中の先生からは、質問はほとんどなく、講義を聞くようなスタイルだったので、困惑しました。

分析


口述試験の合格率は、私の受けた年は45.4%でした。

明確な合格の線引きというのはありませんが、4段階に分けられて、上位2グループが合格するようです。なので、基本的に上位半分に入れば大丈夫です。

しかし、相対評価なので、絶対的な合格基準というものはありません。合格発表まで合否はわからないです(手ごたえや試験管の言動である程度合否は予測できますが)。

面接官3名は、厚労省の人、大学教官、労働衛生コンサルタントの3名と感じました。それぞれ、担当する出題分野があるようでした。なので、出題される話題としては、ある程度バランスよくなっています。

また、産業医経験は聞かれて1年弱と答えたのですが、私の回答するタイミングで試験官はみなさんメモを取っていました。労働衛生関係の職歴は重視していると感じます。

仮に、産業医経験がない状態で受験した場合、印象が良くない可能性や、いわゆる減点扱いとなる可能性があるのではないでしょうか。少しでも産業医業務をこなしてから受験するのが私はいいように感じます。

合格してから


合格すると、合格証とともに、日本労働安全衛生コンサルタント会の入会案内が送られてきます。

入会は任意ですが、入会して登録を行っていない場合は、法的には労働安全衛生法上の労働衛生コンサルタントではないこととなります。労働衛生コンサルタント試験の合格者ではあるが、労働衛生コンサルタントではないということです。

労働安全衛生コンサルタントは名称独占資格ではないので、登録せずに労働衛生コンサルタントと名のることは安衛法違反にはなりません。しかし、登録せずに、名刺に「労働衛生コンサルタント」と記載することはかなりグレーで避けるべきです。

新規登録手数料が20000円かかるので、私は登録は保留にしています。

労働衛生コンサルタント(保健衛生)試験の合格者であれば産業医になれる、というだけで私は十分です。企業や仲介会社に合格証を提示して、「私は産業医です」といえれば実務上問題ないですし、そもそも自分の経歴に箔をつけたいという当初の目的は達成しています。

以上で、今回の文章は終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。

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