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論文執筆アドバイス(1):投稿に向けて
国際誌のエディターや査読者としての自分自身の経験を踏まえて,ジャーナル(学術雑誌)や国際会議に論文投稿するときに気を付けたいことを簡単にまとめてみる.初めて論文を投稿するという大学院生くらいが対象になるだろう.既に博士(なんとか)な人は読む必要はないはずだ.また,異なる分野のことは知らない.
なお,ここでは研究の内容には立ち入らない.既に十分な研究成果があり,それをまとめて論文投稿するときの話をする.あと,ジャーナルや国際会議など全部をまとめてジャーナルと書くことにする.
論文執筆アドバイス(1)では,投稿に向けて知っておくべき初歩的なことをまとめる.
ジャーナルを選ぶ
まず,ジャーナルに論文を投稿しようと思ったときにしなければならないのは,自分の研究に適したジャーナルや国際会議を選ぶことだ.当然ながら,ジャーナルによって対象とする研究分野が違う.同じ分野でも,理論よりのジャーナルと応用よりのジャーナルがあったりもする.ジャーナルの知名度も異なる.ジャーナルのウェブサイトには,SCOPEやTOPICSが記載されているはずなので,しっかり読んで,分野違いのジャーナルに投稿するような愚を犯さないようにしよう.もしやれば,恐らく査読にまわることもなく,即刻リジェクトされる.
分かりやすいのは,自分が研究を進めるために参考にした論文が掲載されているジャーナルを選ぶという方法だ.複数の参考文献が掲載されているジャーナルがあれば,それは投稿先の有力候補になる.
自分の研究がSCOPEに適合するようなジャーナルが複数ある場合,その分野のトップジャーナルあるいはトップカンファレンスと認められているものを選ぶのがいいだろう.ただし,トップかどうかは研究者の主観的な認識であって,Impact Factorが高いからと言って良いジャーナルとは限らない.安易にImpact Factorを指標とするのはやめよう.
投稿規定を守る
投稿すべきジャーナルが決まったら,論文原稿を執筆する前に,著者への指示がジャーナルのウェブサイトに掲載されているはずなので,それをきちんと読もう.例えば,査読段階での原稿はシングルカラムで書けとか,色々と規則があるはずだ.図表の書き方や参照の仕方,数式の書き方,参考文献の書き方など,ジャーナルごとに決まっている.ところが,そういう規則を無視した原稿を投稿してくる輩がいる.そういう原稿は,査読にまわされずにリジェクトされても仕方ない.
LaTeXで執筆する著者向けにはクラスファイルを,MS-Wordで執筆する著者向けにはテンプレートを用意してくれているジャーナルもある.その場合には,クラスファイルやテンプレートの使い方をよく読んだ上で,それらを使おう.
論文原稿以外を用意する
論文投稿時に提出するのは論文原稿だけではない.カバーレター(送り状)をつける必要がある.ただし,そこでダラダラと研究内容を説明する必要はない.それはアブストラクト(要旨)を読めばわかる.少なくとも初回投稿時には簡潔に書けばいい.カバーレターはエディターに読んでもらうので,査読後の改訂版投稿時には査読結果への反論を書く必要があるかもしれない.
カバーレターの他に,研究のハイライトを箇条書きにして提出せよとか,研究の概要が分かる図(graphic abstract)を用意せよとか,ジャーナルによって色々な指示がある.研究のハイライトは,それで論文の重要さ(インパクトの有無)が判断されるので,主張すべきことをしっかりと書こう.
エディターや査読者の立場になる
重要なのは,論文を審査するエディターや査読者の立場になって論文原稿等を用意するということだ.それに尽きる.
そして,「論文を執筆するときに注力すべきこと」に書いた通り,
・キーワード検索でヒットすること
・論文タイトルで読む候補に挙がること
・論文要旨(abstract)で惹き付けること
が論文が読まれるために必要な条件だ.これらを意識して執筆にとりかかろう.
© 2020 Manabu KANO.