重度の細菌性感染症で救急へ駆け込み,即手術,そのまま入院,そして退院までの経緯
2023年8月30日,タイトルの通り,救急外来で京都府立医大病院に駆け込み,その場で手術となり,そのまま入院することになった.それから退院まで14泊15日.Twitter(現X)でのつぶやきを参照しつつ,その経緯をメモしておく.
前兆
8月21日にバルバドスへの海外出張から帰国した.数日して,体調が悪くなった.最初は患部がちょっと痛むな,少し腫れているな,自転車に乗りにくいな,くらいだったので,特に気にしていなかった.
このバルバドス出張の終盤,特に帰国時には,想像を絶するストレスに晒された.フライトがキャンセルされるとか,ロストバゲッジしたとか,そういう甘いレベルではない.事件といっていいだろう.感染症は免疫力の低下が引き金となるので,実は,この事件のストレスが一因ではないかと疑っている.この事件については,改めて説明しようと思っている.
8/28 皮膚科医院での診察
上述の通り,しばらく調子が良くなくて,少し発熱もしていたので,週末は自宅に引き籠もり,横になりながら過ごしていた.ゆっくりしていれば良くなるだろうと考えていたが,8月28日に患部の痛みが酷くなり,自宅近くの内科に行って診察してもらった.患部は化膿しており,そこから膿を絞り出して,薬と痛み止めを処方してもらった.このときは,大事になるとは思いもよらず...
その後,蜂窩織炎(ほうかしきえん)という細菌感染症があると教えてもらった.調べてみると,素人目にも症状が一致しているように思える.病状が深刻化すると敗血症になるとのことで,注意が必要だとは理解したが,8月30日の昼には熱も下がっていたので,まあ大丈夫だろうと思っていた.
8/30 激痛で救急へ,そして手術
ところが,8月30日の夕方になると,患部の激痛に耐えきれず,診察してもらった内科に再度診てもらえないかと電話した.すると,「それだけ痛むのなら,うちでは診られないから,すぐに皮膚科に行った方がいい」と言われた.それで,彼女に付き添ってもらいながら,終了時刻間際に皮膚科に駆け込むと,患部を診るなり,「これは重症だ.蜂窩織炎かもしれない.危険な状態なので,皮膚科に紹介状を書くから今すぐ府立医大病院に行きなさい」と言われ,そのまま彼女に車を運転してもらって,京都府立医大の救急に向かった.
そのときの皮膚科の担当は男性医師で,患部を診てもらうと,すぐに手術が必要ということになり,呼び出しで女性医師も駆け付けられて,部分麻酔を行い,患部を切開し,化膿した部分と壊死した組織を切除してもらった.そして,そのまま入院となった.
診断名は蜂窩織炎ではなかったが,同じようにすぐに重症化する感染症で,さらに凶悪なやつだと説明してもらった.
医師によると,「あと1日か2日来るのが遅かったら,全身麻酔をしてガバッと身体を切り開く手術が必要になっていたと思います.早く来ることができて良かったですね」とのことだった.間一髪セーフ,不幸中の幸い,なのだろう.相変わらず自分は運を味方につけている感じた.
手術が終わると,入院の話になり,少なくとも2週間は入院することになるだろうと告げられた.数日か長くて1週間だろうと思っていたため,さすがに驚いたが,こればかりはどうしようもない.説明を聞いた彼女も「えーーーっ...そんなに...」という感じのリアクションだった.
こうして入院生活が始まった.
8/30 入院生活開始
車椅子に座り,看護師に付き添われて病室に向かったときには,既に就寝時間になっていた.そのため,その日は病棟の説明などはなく,そのまま病室のベッドに横になった.
ここから,感染症を抑え込むため,24時間の点滴が続いた.このときにはまだ細菌培養検査の結果が出ておらず,感染症の原因となった細菌も特定されていなかったので,多くの細菌に対応できる抗生剤を使うとのことだった.
24時間の点滴なので,病室内でも,病棟内でも,トイレに行くにも何処に行くにも,点滴棒と一緒だ.ガラガラと手で持って移動する.まさか自分がこの状態になるとは...
8/30-9/5 入院前半の生活
入院すると,生活が一変する.
朝食は朝8時,昼食は昼12時,夕食は夕方18時と規則正しい.10分ほど早いときもあれば,20分ほど遅いときもあるが,それまでの生活で夕食が19時頃だったり24時頃だったりしたことを思えば,猛烈に規則正しい.もちろん,おかわりなどなく,間食もない.食事の量も完璧にコントロールされる.
消灯は9時半(たぶん)で,早く寝れば早く目覚める.自然と早寝早起きの習慣になる.実に健康的だ.
これだけ環境を整えてもらえるのだから,自分にできることはしてみようと,「よく噛んで食べる」ことを心掛けることにした.
入院2日目(実質1日目)の8月31日に,病棟の説明を受けた.トイレやシャワー,食事など,色々と説明してもらったが,「盗難に注意して下さい」との注意喚起もあった.
病棟の給湯室には給水器があり,温水,常温水,冷水を自由に使うことができた.空のペットボトル2本が手元にあったので,そのうち1本は冷水用とし,1日3回くらい,ここで冷水を補給した.もう1本は冷蔵庫に入れてある麦茶用とし,白米が出る昼食と夕食のときに飲んだ.
なお,手術では傷口を縫合せず,切開したままにして,入院中にも毎日処置をすることになった.壊死した組織を取り除く(医師はゴミ掃除という喩えで説明されていた)必要があるためだ.
処置は病棟内の処置室で行われることが多かったが,そこが使用中のときは,病室内で処置をした.また,外来棟に行くこともあった.
入院中,血液検査が頻繁に行われた.白血球値など感染症の影響を受ける数値を見て状態を把握する.感染症関連指標はみるみると下がり,医師からも「経過はいいですね.治りが想定よりも早いですよ」と言ってもらえた.
その他,入院生活については以下の通り.
運動:骨ストレッチと階段昇降
入院した当初は24時間点滴で点滴棒と二人三脚の生活だったため,運動することはおろか歩くことも難しかったが,24時間点滴が終わり,1日4回(4, 10, 16, 22時)の抗生剤点滴でよくなると,身体を動かせるようになった.
そこで,手術跡が痛んだりしなければ,朝夕に骨ストレッチ体操をすることにした.病室では太陽の光を浴びることができないため,朝は病棟6階の東側廊下かラウンジで,夕方は西側廊下で体操を続けた.
他の入院患者は「あの人奇妙な体操をしているな」と思ったことだろう.
さらに,入院生活も1週間が過ぎる頃には,朝夕に階段を昇るようになった.最初は,1階から病室のある6階まで.次に,それを2回,そして3回と繰り返すようになり,遂には1日1000段以上階段を昇るようになった.それだけ体調は良かった.
個室
感染症患者ということもあり,手術後に入った病室は個室だった.数日して状態が落ち着いたら大部屋に移るらしかったが,オンライン会議をいくつも予定していたし,全学教育シンポジウムでの話題提供と討論もあり,パソコンを使い続ける必要があったので,個室にしてもらいたいと希望を伝えた.
個室は料金が高い部屋と安い部屋の2種類があり,それぞれ1日8千円強,5千円強だった.安い部屋には空きがないとのことで,私は高い部屋を使うことになった.なお,1泊○千円ではなく,1日○千円であることに注意を要する.1泊2日の入院なら,金額は○千円×2になる.
本当に部屋が違うのかどうかはわからなかったが,少なくとも,高い部屋ではテレビが見放題になる.安い部屋だとテレビカードを購入しなければならない.この違いがあるため,テレビ台は可動式になっており,私が手術後に入った病室を使い続けることが決まると,見放題テレビを搭載したテレビ台(写真左奥)が運び込まれてきた.加えて,2ドア式冷蔵庫(写真右奥)も自由に使ってよいことになった.
ただ,テレビ見放題と言っても,見たい番組はほとんどない.入院中に2回,日曜日に「VIVANT」を見たくらいだ.
9/6-9/13 入院後半の生活
9月5日まで,シャワーを浴びることができなかった.病室では24時間エアコンが働いているので,外が猛暑であっても快適に過ごすことができた.汗がしたたり落ちるようなことはない.時々,看護師が持ってきて下さる熱いおしぼりで身体を拭いた.
シャワーを浴びられるようになったのは9月6日.入院後初シャワーはとても気持ちがよかった.
それでも,手術で切開したままの患部は時々痛んだ.痛むときは,じっとしているのも辛く,座っていることはできなかった.このため,パソコン作業もできず,そのようなときは,ベッドに横たわりながら,Amazon Primeで映画を見たり,YouTubeを見たり,本を読んだりして過ごした.
入院中も,入院前と変わらずオンライン会議をこなした.加えて,全学教育シンポジウムでの話題提供と討論もあった.まさか病室から講演することになるとは,引き受けたときには思ってもみなかった.
このように,入院中ではあっても普段と変わらない面も多かった.
抗生剤も最初は様々な細菌に対応できるものだったが,検査結果からレンサ球菌が原因だろうということになり,対象を絞った抗生剤に切り替わった.
抗生剤を切り替えた後,下痢に近い症状が出るようになった.医師と看護師によると,抗生剤の影響でそうなることもあるらしい.個人差も大きいとのことだった.
9月9日の土曜日と10日の日曜日には,天気も良かったので,検査や処置が一通り終わった後に病棟を抜け出し,鴨川沿いのベンチで本を読むなどした.
ところで,病棟にはWi-Fiがなかった.有料無料問わず,まったく電波がない.一方,近くに研究室等があるからだろうが,外来棟ではEduroamが使えた.自分は持参したモバイルルータをずっと使っていた.
入院中ずっと接続したままで,オンライン会議,Amazon Primeの映画,YouTubeの動画,メール送受信,ネットサーフィン,OSやアプリのアップデートなど,よく使った.普段はほとんどの時間,大学か自宅から接続するので意識しないが,入院中はモバイルルータを使うので,データ使用量を確認することができた.
おおよそ,5〜8GB/日のデータ使用量だった.
悲報:退院しても自転車に乗れない!?
退院の目処がたってきた9月8日の診察時に,皮膚科の先生(担当医師3人のうちの1人)に「退院したら自転車に乗っていいですか?」と尋ねてみた.というのも,9月末に高知にサイクリング旅行に行くつもりだったからだ.目的は四万十ヘブンズロードを走ること.人気のサイクリングコースだ.入院で体力が落ちているし,いきなりロングライドは無理なので,事前に練習が必要だ.
医師の回答は力強いものだった.
「自転車はダメです.絶対にダメ.自転車はあらゆるものの中で恐らく最悪です.抜糸するまでは絶対に自転車に乗ったらダメですよ」
仕方ない.手術した場所は,ちょうどサドルにあたるばかりか,ペダルを漕ぐと擦れるところだ.糸で縫合した状態で自転車に乗れば,悪化させかねない.というわけで,悲嘆に暮れながら,航空券,JR特急券,新幹線,ホテルなどすべてキャンセルした.手数料も痛いが,随分と前から楽しみにしていた四万十川サイクリングに行けなくなって悲しい.
縫合,そして退院へ
週明けに縫合することが決まったが,具体的な日時はわからないままだった.月曜日か火曜日にとのことだったが,月曜日にはオペが予定されているため,縫合する時間が取れないかもしれないとの説明だった.ただ,オペとオペの間に縫合してしまうかもしれないので,病室で待機しておくようにと指示された.
縫合すれば,翌日に退院することもできるとのことだ.
結局,9月11日の月曜日の午後2時半頃,今から縫合するので外来棟に来て下さいと呼び出しがかかった.急いで外来棟に向かい,皮膚科の受付(40番窓口)でその旨を伝える.縫合を行う診察室に招かれると,簡単な説明があり,部分麻酔をしてから縫合が始まった.ずっと時計を見ていたが,縫合に要した時間はちょうど30分だった.
火曜日に退院することもできるとのことだったが,1日経過を見た方が安心できるという医師の意見と,別の治療の退院までの治療計画との兼ね合いがあり,9月13日水曜日に退院することになった.
退院の前日に,もう使わない服や本などの荷物を彼女に引き取りに来てもらった.入院中も必要なものを持って来てもらうなど,とてもよく面倒を見てくれた.入院生活を不自由なく過ごせたどころか,非日常的な入院生活を楽しんで満喫できたのは彼女のおかげだ.
加えて,医師と看護師がどなたもとても親切で,いつもにこやかに接して下さったことも印象的だった.激務のはずだが,そんな様子は少しも見せず,明るく笑顔で接してくれる様子には心が和んだ.感謝しかない.
入院は嫌悪すべきものかもしれないが,私の場合,今回の入院を大いに楽しんだ.使用している薬や点滴について教えてもらったり,器具について教えてもらったり,病院の日常について教えてもらったりと,興味は尽きなかった.
個室を使わせてもらったこともQoLを劇的に向上させた.周囲に気を遣わなくていいのは精神衛生上とても良かったし,いつでも必要なときにオンライン会議やパソコン仕事ができたのも有り難かった.
そして,9月13日の朝,請求書を受け取り,退院した.
退院前に自動精算機で諸々の費用を精算するわけだが,請求金額を見て驚いた.
349,897円.
30%負担でこの金額なので,元々の費用は100万円を超える.日本の医療制度・保険制度は有り難いと思った.さらに,支払った金額の半分くらいは,入院保険等で戻ってくる.
自宅にはタクシーで帰った.久しぶりの自宅.その日の午後は,自宅から出ることもなく,のんびりと過ごした.
祝杯:グレンモーレンジィ・フォレスト
退院した日.夕食を済ませた後,退院を祝して新しいウイスキーのボトルを開けようと,華やか系であるグレンモーレンジィの18年,14年,10年(よく見るやつ),そしてフォレスト(Forest)の中から,グレンモーレンジィ・フォレストを選んでみた.
Forestは2020年に始まったグレンモーレンジィの物語シリーズの第3弾「森の物語」で,公式サイトには「美しい森の景色、香り、音をウイスキーで表現した、みずみずしいボタニカルなアロマあふれるシングルモルトです」との説明がある.なお,価格は12000円くらい.
最初,香りは弱めに感じたが,飲んでみるとグレンモーレンジィ10年とはまったく違う.アルコール感が強いのとは異なる,ピリッとした刺激がある.テイスティングノートを見てみると,「胡椒の刺激のようなピリっとした,発泡に近い感覚を覚えると,様々な味わいが押し寄せてくるのを感じます」とある.こんなグレンモーレンジィもあるのかと,新しい発見をした.
こうして,15日間に及んだ入院生活が閉幕した.
© 2023 Manabu KANO.