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論文執筆アドバイス(2):論文の書き方

毎年,修士論文と卒業論文の提出時期になると,学生が書く論文原稿の確認と修正に膨大な時間を費やす.添削しながら,論文を執筆するときに気を付けてもらいたいことをTwitterで呟いたりもしてきた.それらをまとめておけば誰かの役に立つかもしれないと思い,論文の書き方について知っておくべきことをまとめておく.

繰り返すが,ここでは研究の内容には立ち入らない.既に十分な研究成果があり,それをまとめて論文投稿するときの話をする.

なお,論文を執筆する上で超重要な3つのポイント
・キーワード検索でヒットすること
・論文タイトルで読む候補に挙がること
・論文要旨(abstract)で惹き付けること
については,既に論文を執筆するときに注力すべきことにまとめたので,そちらを読んで欲しい.この3つのポイントを抑えておかないと論文を読んでもらえない.

論文らしい構成にする

論文を執筆するときに大切なことは色々あるが,まず注意すべきは,論文全体の構成だ.Introduction, Materials and Methods, Results, Discussion, Conclusionの順番で書けといった指示のあるジャーナルもある.そのような指示があるなら,従わなければならない.

その上で,その研究についての論文を初めて読む人(査読者を含む)が,話の流れについていけるように書く.その研究の重要性や必要性を説明するのはもちろん,既存の研究をサーベイした上で,それらとの関係も整理して書いておかないといけない.話が飛ぶ(論理が飛躍する)ようなことがあってはいけない.緒言から結言まで,ふむふむ,なるほど,と思いながら査読者が読めるようでないといけない.さらに,「おー,これは凄い!」と思ってもらえるなら大成功だ.

簡潔明瞭に書く

冗長な文章を書いてしまう人は多い.論文の最重要ポイントであれば,要旨(abstract),緒言(introduction),結言(conclusion)で繰り返すべきだろう.しかし,それ以外については,同じ(ような)ことを2度も3度も書くべきではない.無駄なばかりでなく,邪魔だ.

同じ(ような)ことを繰り返してしまうのは,文章の構成が悪いからだ.原稿を書く前に,その構成(章立て)を考えよう.論文全体では,Introduction, Materials and Method, Results, Discussion, Conclusionの順で書くとして,それぞれのsectionで何をどのような順番で書くのかを予め決めておく.話題が行ったり来たりしてはいけない.最初から最後まで流れるように話が進むようにしよう.そうなるまで,構成(章立て)を修正しよう.

論文の骨格ができれば,後は肉付けするだけだ.骨格がしっかりしていれば,原稿がグチャグチャになることはない.逆に,論文の骨格もできていないのに,べたべたと肉付けをするから原稿がグチャグチャになる.

論文の緒言は雑談ではない.的を絞ること.修士論文や卒業論文も含めて論文を書くときは,文章から贅肉を削ぎ落とすこと.徹底的に削ぎ落とすこと.以前,学生の書いた文章を私が書き直すと量が1/3に減った.もちろん情報の量は変わらない.スッキリした文章が書けないということは,思考もスッキリしていない恐れがある.スッキリした文章が書けないのは,読む量も書く量も圧倒的に不足しているのが原因だろう.努力するしかない.

論文を書くときには,専門的な用語は明確に定義して論文全体を通して同じ用語を使い続ける.こんなところで語彙自慢しなくていい.用語が違えば,指している内容も違うと考えるのが普通だ.誤解を招かないために,用語は統一する.

具体的に書く

無駄な装飾をなくすという意味では,論文を書くとき,副詞や形容詞の使用は最小限に抑えて定量的に論じることが望ましい.例えば,"very ..."だ.ほとんど何の意味もない.「従来法より性能が凄く良くなった」では説得力がまったくない.せめて,「従来法より○○という指標で□□%良くなった」くらいには具体的に書こう.

実際,客観的に良く書かれた論文を書くのは難しい.卒業論文や修士論文を経験したくらいで書けるようになるものでもない.企業の技術報告書とかがボロボロでも,まあ,仕方ないとは思う.それでも,書けなくてよいわけではないので,意識的に改善に向けて取り組むべきだ.

根拠を示す

修論や卒論の緒言を読むと,「○○は不可欠である」とかいう宣言が冒頭に書いてあったりする.そういうときは,とりあえず,「本当か?その根拠は?」と尋ねる.「えっ?だって△△ですよね」との回答にも「なぜ?□□の可能性もあるよね」と尋ねる.自分の論文なのだから,自分が徹底的に考えて書かないといけない.妄想を書くな.まず文献を読んで事実確認をすること.エビデンスを集めること.ファクトチェックすること.

論文に書かれてある「○○が重要である」というのは大概ポジショントークにすぎない.ある観点からそうであるなら,そう主張するのも構わない.だが,大局的に物事を捉えて,本当に重要なこと,為すべきことは何かを判断できる方がいい.視野を広げよう.そのためにも,本を読もう,論文を読もう.

「提案法で超良くなった!」と書かれても,お前の妄想だろとしか思わない.あるいはそれが本当だとしても,物凄く自分に都合の良い例だけを持って来たのだろうなと思う.実際,そんな論文は多い.何を主張するにしても,その根拠を示さなければならない.その根拠は客観的かつ説得的でなければならない.

自分の主張の根拠とする以外にも,参考文献を適切に引用することは重要だ.先達の研究には敬意を払う必要がある.

見やすい図表を使う

図表にも気を付けたい.よく見掛けるのは,途方もなく解像度の低い図だ.一気に評価が下がる.あと,図中の文字が無茶苦茶小さかったり,読みにくいフォントであったり,識別しにくい色を使っていたりというのもありがちだ.読んでもらう気があるのかと思う.これも評価は低くなる.本文と同じようなファントやサイズを使うのが無難だろう.

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2種類のグラフを作成してみた.左側はソフト(MATLAB)で何の設定もせずに描画しただけのグラフ,右側は文字のファントとサイズを変更したグラフだ.どちらも,複数の正弦波(a)とその和(b)を図示している.違いは明らかだろう.見てもらうために,理解してもらうために,図表を論文に掲載するのだから,見やすい図表でなければならない.

論文をPDFで入手するようになった現在,図はカラーでも大丈夫だ.しかし,査読者や読者はモノクロプリンターで印刷するかもしれない.このため,グレースケールで印刷して識別できる図にしておくのが無難だろう.

細部にも気を配る

数式,図表(キャプションも含めて),参考文献も含めて,論文原稿の細部にも気を配り,その完成度を高める.徹底的に高める.

数式中の記号が間違っているとか,記号のイタリック,ローマン,ボールド,上付き,下付きなどが無茶苦茶だとか,図中の文字の大きさがバラバラだとか,参考文献の情報が間違っているとか,そういうのは良くない.ところが,こういうミスを何度でも繰り返す不注意な人が多いのも事実だ.そんな1人にならないように,くれぐれも注意して,徹底的に原稿を推敲しよう.

© 2020 Manabu KANO.

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